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第八十四話:「大潮の頃、汐干狩と渦潮見」

2018年3月8日

水もぬるんで季節も良くなってくると、人々が川辺や海辺へ戻ってきます。
雛祭りも昔は水とは関係が深く、川や海に人形を流して穢れを捨てる儀式だったそうで、
これと時を同じくして行うのが「汐干狩」でした。
晩春のころ、潮の干満が最も大きい「大潮」となり、(秋の大潮では引き潮が深夜になるのに対し春は)
早朝から潮が引き始め正午には干上がって、遠浅の海底が陸地と化すので、
アサリ、ハマグリ、カニなどの貝類や甲殻類、海藻などを採って、実益を兼ねたレジャーを
楽しんだようです。往時は、早起きして隣近所の人たちが集い、船を貸し切って沖まで繰り出し、
そのまま潮の引くのを待ち、船から降り立ってカキやハマグリを拾い、砂中のヒラメやカニを掘り当て、
少し海水を残した浅瀬では小魚を得て、船へ戻り宴会を楽しんだのだそうです。
やがて潮が満ちて来て、海水が平底の船が浮き上がれば、元の船着き場へ戻るという算段なわけで、
のんびりした楽しい一日の行楽行事でした。
尤も、昭和の経済成長時代を経て、海浜工業地帯の開発や埋め立てによる商業施設や
宅地造成が加速されて、遠浅の海浜がどんどん喪失されてしまって、近年は家族連れや
会社の行事で潮干狩りを楽しむ機会もなくなってしまったようで、海洋国日本人としても
聊か寂しい思いがします。
 
汐干つづけ今日品川をこゆる人 山口素堂
のぼり帆の淡路はなれぬ塩干かな 向井去来
汐干くれて蟹が裾引くなごりかな 服部嵐雪
 
此処で向井去来と服部嵐雪は芭蕉門下の十哲に数えられる俳人ですが、
中でも「梅一輪一輪ほどの暖かさ」の句で著名な嵐雪は、筆者の郷里、兵庫県淡路島の隣町の出身です。
淡路島と言えば、世界一の渦潮(潮流時速20km、渦の大きさ30m~15m)を見物する
観潮船で大潮時には、賑わいを見せます。島の南西端と徳島県との間の鳴門海峡は幅1.3kmと狭く、
大小無数の岩礁が散在しており、潮の流れが特に速いので、満潮の播磨灘(瀬戸内海)と干潮の
紀伊水道(太平洋側)が対峙する結果、海面に落差(1.5m)が出来、小さな渦が激流に流されるうちに
巨大な渦に転じ壮大な景観を呈します。
歌川広重の浮世絵が内外で広く鑑賞されるにつれ、江戸町民や西欧の旅人にも知れ渡っており、
世界三大潮流の一つとされております。筆者は、他の二か所、イタリア・シチリー島のメッシーナ海峡も、
カナダのシーモア海峡も観光したことがありますが、これらは潮流の速さだけが見どころであり、
鳴門海峡の比ではなく、殊に渦潮の大きさは世界広しと雖も、希少価値のある絶対的壮観であると思います。
 
渦潮の中に入りゆく舳を向けて 山口誓子
渦潮を落ちゆく船の姿して 山口誓子
渦潮の渦の快楽を思ひ寝る 上田五千石

最終更新日 2021年11月3日

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