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細胞老化と癌(その10): 腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor genes): お薦めしたいP-53自己抗体定性検査

2018年3月2日

細胞が癌化すると、必然的にその活性を抑える抗体が発生し、免疫作用が働きます。
胸腺免疫細胞(T細胞)、骨髄免疫細胞(B細胞)などとともに、もう一つ活躍するのが癌抑制遺伝子。
ただこの抑制遺伝子は免疫細胞と同様に正負の作用を持ちますから、さらなる研究が必要です。
ここで解説するP-53癌抑制遺伝子は抑制遺伝子と呼ばれる前は、
癌化遺伝子(オンコジーン:oncogene)と呼ばれていた時期もありました。
細胞の癌化ではP-53癌抑制遺伝子が急増していることが確認されていますが、当初は援軍なのか敵なのかが
不明だったからです。
癌抑制遺伝子は色々な種類が発見されていますが、特に癌の発現、進行とともに増加する
P-53癌抑制遺伝子は広範囲な癌種に対し主として抑制に活躍します。
したがって体内のP-53存在量を確認すれば癌を早期発見し、癌の進行程度が予測できますから、
中高年の方々はP-53自己抗体定性検査をできるだけ早く実施されることをお薦めします。

 

 

1. 癌の予防と長寿達成にはDNA結合制御タンパク質(ヒストン)のアセチル化

DNAのたんぱく質構造であるクロマチン(chromatin)が、ストレス、環境悪化や発がん食品などの 外的要因、体組織の慢性炎症、感染症などによってどのようにがん細胞に変化していくか、 過去の解説から、おさらいしてみます。

クロマチン(chromatin)は、DNA結合制御タンパク質とよばれるヒストン(Histone)に DNAが絡む構造(ヌクレオソーム:nucleosome)が集合して構成されています。

DNA結合制御タンパク質ヒストンの化学反応の代表的なものには アセチル化、メチル化、リン酸化がありますが、長寿や発癌抑制の研究ターゲットとなっているのは アセチル化(histone acetylation)。

ヒストンが酵素群(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ:histone acetyl transferase:HAT)により アセチル化(アセチル基が加わる)すると、癌などの遺伝子発現を抑制します。 ヒストン脱アセチル化酵素阻害作用と呼ばれ、赤ブドウなど食材が自然に持っている 癌遺伝子抑制機能です。

反対にヒストンがヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase:HDAC)により 低アセチル化(脱アセチル化:アセチル基が加水分解により除去される)すると 発病に関わる遺伝子が転写を続け、増殖するといわれます。

実際に多くの脳疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、せき髄性筋委縮症や 様々な難病でもタンパク質のアセチル化レベルが不安定となっており その阻害剤は医薬品開発の主要ターゲットとなっています。

これから解説するプロテイン53(P53癌抑制遺伝子)や網膜芽腫タンパク質(Rb癌抑制遺伝子)は ヒストンが低アセチル化すると増えているのが確認されているため、発癌のマーカーとなっています。

 

 

2. 代表的な腫瘍(癌)抑制遺伝子(tumor suppressor genes)はP-53

がん遺伝子が活性型となり癌化遺伝子に変異するのを抑制(稀?に増殖)するには腫瘍の種類により異なった 腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor genes )が関わっていると(現時点では)考えられています。

Rb遺伝子、P-53遺伝子、APC遺伝子、p16(CDKN2A)遺伝子、*BRCA1、BRCA2など重要な遺伝子だけで10種が認定されています。

認定外を含めれば、全体で60種類以上が発見されているといわれますが、機能的に重複する遺伝子が 存在することも考えられ、どこまでの機能を癌抑制遺伝子と呼ぶか議論が有るところでしょう。 この中で最も話題の多い腫瘍抑制遺伝子は*Rb遺伝子、P-53遺伝子(後述)、*BRCA1、BRCA2ですが 特にその作用が広範囲な癌種に及び、腫瘍抑制遺伝子で中心的な働きをするのがP-53遺伝子と 考えられています。

*(参考)1986年に網膜芽細胞腫の原因遺伝子であるRb遺伝子(Retinoblastoma Gene)が 正式に発見され、その特性は癌(がん)研究の進歩に大きく貢献しました。

網膜芽細胞腫の遺伝子として発見されたRb遺伝子は細胞周期の間期(interphase)でDNA の複製(Synthesis:細胞周期ではS期と略される)を阻害します。

最初に発見された癌抑制遺伝子(Tumor suppressor gene)として重要視されています。

*(参考)BRCA1:breast cancer susceptibility gene   米国では女性の発癌ナンバーワンの乳がん抑制遺伝子

 

 

3. 癌化細胞の発生とP-53(Protein53)癌抑制遺伝子

P-53(PはProtein、53は分子量53,000を表します)はアミノ酸393個が構成する低分子蛋白質。 細胞内タンパク質同士のシグナル伝達機能、遺伝子の結合機能(binding)や転写機能(transcription)を 持ちます。

現段階では、P-53が直接シグナル伝達機能、遺伝子の結合や転写(複製)機能(transcription)を持つのか、それとも他に結合物質、介在物質があるのかが、ケース・バイ・ケースであり、決定的ではありません。

癌抑制遺伝子の一つである、P-73なども側援物質といわれています。

P-53は癌遺伝子メカニズム究明の実験室過程で発見され、癌細胞を増殖させる作用と 死滅させる作用(アポトーシス:apoptosis)双方に関わる重要物質ではないかと推測されています。

また、P-53は細胞周期(cell cycle:通常20分程度)に関与する物質ともいわれ、 がん細胞が発現し癌化細胞になると、細胞周期を最高60倍近く遅延化させます。 P-53はこの間、損傷遺伝子の修復や、がんになりそうな細胞を自滅(自死)させる 細胞自然死(アポトーシス:apoptosis)の導入を試みます。 かなわぬときは、自己抗体を作り自身が変異を起こします。

変異は主として遺伝子構造中のアルギニン塩基配列の点(一部)欠失。

変異を起こしたP-53は癌細胞増殖を促進させる、負の働きをするとも言われています。

P-53の発見は当時のジャーナリストが遺伝子の守護天使(Guardian Angel of the Genome)、警護役(Guardian of the Genome)とも名付けた(1993年)ほど、癌死滅メカニズム解明のキーとして、 25年以上を経たいまでも期待が持たれています。

 

 

4. カルシノーゲン(carcinogen:発がん物質)とは

癌化遺伝子(オンコジーン:oncogene)は、細胞がストレスやウィルス、カルシノーゲン(carcinogen)と 呼ばれる癌発現物質(紫外線、殺虫剤成分、ダイオキシン、タバコのニコチン、*アフラトキシンなど)に より触発され、がん化に向かい変異(mutation)すると考えられています。

*アフラトキシン(aflatoxins:カビ毒)はトウモロコシ、アーモンド、ピーナッツなどに発生します。

 

 

5. 癌化遺伝子(oncogene)の発見まで

癌化遺伝子(oncogene)が変異遺伝子として鶏から発見されたのは1970年です。

発見されたものは当初SRC癌遺伝子(*SRC- oncogene)と呼ばれていました。 *SRC:Steroid receptor co-activating factor 1976年にはこの癌化遺伝子が遺伝等により正常細胞にも存在することが解明されています。

人間の癌化遺伝子発見の糸口は、1978年にSRC 蛋白(SRC protein)が*プロテイン・キナーゼ酵素(protein kinase family of enzymes)の一つだと解明されたことにあります。 この解明により1979年に最初のリボ核酸腫瘍ウィルス(RNA tumor virus: *HTLV-1)が発見されました。

ウィルスは成人の白血病骨髄細胞から検出されたものです。

*HTLV-1:ヒトT(骨髄)細胞白血病ウイルス(Human T-cell Leukemia Virus)

*キノン・リダクターゼ エストロゲンを不活性化するなど化学反応の触媒となる酸化還元酵素.

多様な呼び名がありますが代表的なのがNAD(P)H:quinone oxidoreductase. また1981年には肝臓がんの患者の肝臓からB型肝炎ウィルス(Hepatitis B virus)が発見されました。 その後ウィルスが癌遺伝子変異の起因となることの解明が進みます。

1986年にはRb 遺伝子(Rb gene:*retinoblastoma gene)が単離されました。

Rb 遺伝子の発見が、それからの癌遺伝子とP-53遺伝子など重要な腫瘍抑制遺伝子機能の解明に 繋がっていきます。

*retinoblastoma(レチノブラストーマ)は眼の癌と言われる網膜芽細胞腫です。

 

 

6. P-53癌抑制遺伝子発見の歴史

P-53は1979年にデーヴィッド・レーン教授ほか複数の研究者(アーノルド・レヴィン:Arnold J. Levine)、ロックフェラー大学学長ら)によって発見されましたが、当初は、癌化遺伝子(オンコジーン:oncogene)と考えられていました。

デーヴィッド・レーン(David Lane)教授は英国スコットランド、ダンディー大学ガン遺伝分子学科教授(Molecular Oncology,University of Dundee,Scotland)。

1989年になり、*バート・ヴォゲルスタイン教授らも加わり、P-53は腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor genes)であることが解明されました。

P-53は癌細胞の増殖を防ぎ、癌の診断、治療に大きな役割を果たす物質として期待され、 1995年には2,000を超える論文が発表されています。

これは単一の遺伝子研究では前例の無いものでした。

*バート・ヴォゲルスタイン(Bert Vogelstein) ジョーン・ホプキンス大学薬学部教授( Pathology, Johns Hopkins University School of Medicine)

 

 

7. お薦めしたいP-53自己抗体定性検査

P-53遺伝子は癌の発現、進行とともに増加し広範囲な癌種に対し主として抑制に活躍します。

したがって体内のP-53存在量を確認すれば癌を早期発見し癌の進行程度が予測できますから、 2000年代に入るとP-53自己抗体定性検査が、医師など関係者の間で話題となり、 盛んに自己負担検査が実施されるようになりました。

2007年より保険適用検査となっています。 検査は、採血された検体(4cc)から、*エライザ(ELISA)方法(後述)によって P-53を検出するものです。

癌抑制遺伝子はいくつも種類がありますが広く様々な癌種に発生するのがP-53癌抑制遺伝子。

そのP-53を検知すれば体のどこかに癌が発生しているサインとなり、精密検査に進めば 早期発見ができます。

検査は採血、検査結果は陰性、弱陽性(癌が出来やすい)、陽性(癌発生の可能性あり)、 強陽性(癌発生の疑い濃厚)の4段階 P-53自己抗体定性検査は基本的には「食道がん、乳がん、胃がん、大腸がん」などの検査が目的ですが、 かなり疑わしくなっている場合は、複数の抗体(腫瘍マーカー)を組み合わせて検査します。 またその段階の方は「CT,MRI,*PET」や、さらに高度な機器による検査をします。

健康状態に異常は認められないが、発がんが心配な方は、初期検査としてP-53自己抗体定性検査の 実施をお薦めします。

この検査は10種類以上ある他のマーカー検査より、いろいろな点で検知能力が高いといわれています。

ただし、癌が強く疑われる段階以外は保険適用とはなりません(8,000円前後の費用は病院により 異なりますから検査される病院にお問合せください)

 

 

8. (参考:おさらい)

がん発症とがん抑制遺伝子が不活性化する好気的解糖 「細胞老化と癌(その8 ):癌の増殖、転移を防ぐには:ミトコンドリアmtDNAの抗酸化」より。 

がん抑制遺伝子が不活性化し、癌を増殖させるのは癌細胞の代謝といわれます。

ワールブルク効果*である*好気的解糖(aerobic glycolysis)は古くて新しい発見。

*今でも癌と好気的解糖に関して数多くの論文が発表されていますが ペンシルバニア大学アブラムソンがんセンター(Abramson Cancer Center)の ダン博士(Chi V. Dang)は 「Links between metabolism and cancer:癌細胞と代謝の関係」の中で がん細胞の代謝に関して以下のようにまとめています。

「癌細胞の代謝では活性酸素が生じ、遺伝子変異を起こします。

遺伝子変異によりがん遺伝子が活性化し、呼吸活性が低下。 がん抑制遺伝子を不活性化させた結果、ワールブルク効果である 好気的解糖(aerobic glycolysis)に導きます。 *ワールブルク効果( the Warburg effect): 「有酸素下で行われる癌細胞組織の代謝では、その糖質消費が通常組織の10倍以上」 これによって生じるグルコース(glucose:ブドウ糖)は大量の発酵糖質となり 癌細胞の栄養素として癌細胞を増殖させていきます。

カロリー過剰は癌リスクを増幅させ、カロリー制限は癌細胞から個体を保護しますが、

「ミトコンドリアのオートファジーである損傷遺伝子のマイトファジー(mitophagy:自食作用)は 生体防御機構となっています」

「体細胞が酸素呼吸によらず発酵に依存することで細胞が退化し癌細胞が発生する」 との別の論文もあります。

スイス連邦工科大学のコッペノール教授(Willem H. Koppenol )は教材として 「ワールブルグ博士の癌細胞代謝に関する昨今の概念への貢献*」を紹介する論文を書いています。

Otto Warburg’s contributions to current concepts of cancer metabolism」

 

 

9. (参考) 癌細胞組織の糖質消費をPET(陽電子放射断層撮影装置)で検査する意味

PET(陽電子放射断層撮影装置:positron emission tomography) は高価な医療機器ですから 設置医療機関は限られます。

かっては主として脳神経、脳卒中など頭部の検査に用いられてきましたが、 全身の部位の糖代謝レベルを調べることができるため、解り難い原発巣、拡散を発見するには CT,MRIに較べて精度が高いといわれます。

設備があるところでは多様な検査に用いられ、必要な方には保険が適用されます。

発がん検査では全身に行きわたる放射線薬品(18F-FDG)を使用しますので、その被ばく量を 懸念もされますが、機器の放射線自体はCT,MRIに較べて少ないといわれ、 発がん部位検査(ワールブルク効果の腫瘍組織糖代謝レベル検出)に推奨されています。

ただし癌の形状確認にはPETとCTを組み合わせる検査が必要となりますから、放射線被爆は常に 検討されるべき事項です。

癌化細胞の活性化が考えられる患者には放射線被爆が引き金となることも予想されますから 適用の必要性は専門家の判断が不可欠です。

癌(がん)の治療には検査が必須ですから、被ばく量を軽減させるためにも不必要な 被爆は避けるべきでしょう。

「日本の温泉は安全か?放射線のラドンは肺がんの原因となる:放射線と放射能」

 

 

10. (参考) エライザ(ELISA)検査では西洋ワサビに反応する癌化DNA

固相酵素免疫検定法のエライザ法(ELISA:emzyme linked immuno sorvent assay)はイライザ法とも呼称され BSE、HIV(エイズ・ウィルス)、アレルギーなどの抗原の所在を確認する検査方法。

大掛かりな装置や高度な技術が不要なため、1次検査に多用されています。

標識酵素には西洋ワサビのペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase:HRP) が安価、安定性が高い、 反応が早い、などの特長が多いため最も広く用いられています。 分子上の糖鎖を介して 抗体標識しやすいのも、広く用いられている理由のひとつです

 

 

11. (参考) その他の標識酵素

標識酵素には、この他、アルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase)、βガラクトシダーゼ(β-galactosidase)などが使用されることもあります。

エライザ(イライザ)法の実施技術はいくつかありますが、確度が高いのはサンドイッチ法(sandwich ELISAまたはdouble antibody ELISA)。

この分野ではアベンティス ベーリング社(Aventis Boehring)が先駆者です。

1998年にアベンティス社はプリオンの発見でノーベル医学賞を受賞した スタンリー・プルシナー博士(Stanley B. Prusiner)と構造依存性免疫試験法(ダイレクトCDI 、Conformation Dependent Immunoassay)を共同開発しました。

最近ではダイレクトCDIを進化させた、サンドウイッチ・コンフォメーション依存型免疫法を発表して、 検査業界をリードしています。

 

(参考資料) 冨士見クリニック(和田英理博士)、株)保健科学研究所、

School of Molecular Oncology,University of Dundee,Scotland、Johns Hopkins University School of Medicine

初版: 2003年3月3日

改訂版:2018年3月2日

 

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最終更新日 2021年11月3日

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