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第三十七話:「行き過ぎたグローバル化が分裂と対立の世界リスクを招いている」201

2015年2月2日

パリの週刊誌がムハンマドの風刺画を掲載したことでアルカイーダ系テロ軍団の襲撃を受け死傷者を出すに至り、「表現の自由」と公序良俗の論議が世界に拡散していたところ、降って湧いたようにイスラム教スンニ派過激組織による日本人人質事件が持ち上がりました。
特に日本人同胞への残忍・無慈悲な行為は許しがたき蛮行であり、国際的連携によるテロリズム対策に歩調をそろえるのは勿論のことながら、日本国並びに日本人の危機対応戦略を早急に確立し、更なる事件に巻き込まれること無き様に講じておかねばなりません。
しかも現在の国際テロ情勢は、ひところとは全く様変わりしており、今や無差別殺人を繰り返す宗教テロはグローバル化していて、中東だけの問題ではなくなりつつあることも自覚しておく必要があるのです。
 
そもそも、イスラム過激派の拡散はオバマ中東外交の中途半端なフォローが生んだ失政によるというのが大方の見解で、カダフィ・リビア政権打倒後の地上介入放棄、続くシリア介在でも同じミス(空爆のみに頼り、地上作戦回避)を繰り返した結果、アルカイーダ系のシリア・イラク北域における強権支配を阻止できなかったことに起因すると言われています。
「アルカイーダ」とは英語のThe Network(組織網)を意味する言葉で、中東のみならずアジア、アフリカ、南北アメリカなどに、諸派が散らばって活動しており、今般の人質事件を起こした自称「イスラム国」もアルカイーダから分離独立した組織で(もともと、ISISとかISILとか呼ばれた)、昨年から“国”を名乗っているように、単なるテロ軍団とは違って、リビアと旧イラクのフセイン体制の生き残りたちが、米国の手足が及ばない隙に乗じて政治・経済・軍事体験を生かしパワーを発揮した上で、シリアからイラクにまたがる広域に君臨し市民約8百万人を従えているものの、国際的には“国家”承認を受けていないというのが現状です。
その主要資金源になったのは、原油の密輸でしたが、このところ原油相場の急激な下降により売先も利幅もなくし、資金繰りが苦しいため、何とか国家の承認を受け、正規ルートで石油を販売したいという思惑が、人質交換といった奇策というか、悪辣な広報戦略が背景にあると言われています。序に、石油問題で、現在苦境にあるのは、ロシア、イラン、ベネズエラ等であり、ベネズエラの支援が頼りだったキューバの財政危機が対米国交復帰の動きに繋がっているとも言われています。
 
中東のテロ軍団には、アルカイーダの他にも、ヒズボラ(神の党の意)ハマス(情熱)ファタハ(勝利)アンサール(援助する人々)ペシュメルガ(クルド民・戦闘士)レバノン軍団などがあり、アジア・アフリカには、タリバン(軍事神学校学生)ジェマ(会衆)、ボコハラム(イスラムを否定するのは大罪)等々があります。いずれの場合でも、行動を起こす時に「ジハード」という言葉を耳目にしますが、これを日本のメディアでは「聖戦」と訳しているようですが、元来の正統派イスラム教徒にとっての原意は「聖なる務めに努力する」と言った意味であって、戦闘的なテロ軍団だけが、自己正当化する目的で”聖戦“を自称しているのだそうです。
いずれにせよ、こうした諸活動は、イスラム系富裕層や資源産業、密輸などを資金源として居る訳ですが、人と武器の調達には相当な収入が求められる中、原油暴落のみならず、グローバル経済の停滞、闇資金洗浄阻止の進行などによって、グループごとの信条対立を起点に、献金者・資金源の奪い合いがますます激しい抗争に繋がっているようです。
 
20世紀最後の正規軍による戦争は、80年代のフォークランド紛争を区切りとし、その後は局地戦か非正規軍による戦闘やテロ戦争の続発する時代となっています。
核抑止力もあり先進大国では、それぞれ高度な兵器も量産されているので、もはや大国間激突とか世界大戦はなくなったという説が有力です。
しかし、民主主義が袋小路にぶつかり、一方で共産主義国の自由経済化を加速させたグローバル経済が、各国間の富の格差を生み、各国内での生活格差、失業・不満分子を頻発させることとなって、世界的にさまざまなリスクを顕在化させるとともに、民族文化・宗教から政治経済に至る諸問題が深刻化して、分裂と対立を増発させてきたのが実情です。
これらの動きは、ますます複雑化の様相を呈しており、イスラム対キリスト教と言った単純な図式を潜り抜け、イスラム宗派間(スンニ派対シーア派)にクルド系、アラブ系、ペルシャ系など民族も絡めた抗争から、既述のようなアルカイーダ系内部での綱引きに至るまで、あるいは同一民族内でも、所得格差間、支持政党間の争いが日常茶飯事化しております。
経済圏で言うなら、ギリシャのユーロ離脱や英国のEU脱退が疑惑を呼び、欧州内の利害対立と迷走が始まって居るほか、一方では中南米の反米国間で、経済不調から中国にすり寄るか、米国傘下へ舞い戻るかの取捨選択を迫られています。
中国の圧力に不安感を強めるアジア・アフリカ諸国の中国離れも進んでいる中、肝心の中国自体が、経済減速と汚職摘発で軍と経済の内部対立を生み、イスラム世界と裏でつながっているウイグルの族制圧強化に加えて、香港と台湾の反中機運の高まりも世界情勢への不安材料でしょう。欧米の経済封鎖でロシアの財政悪化と通貨危機が喧伝され始めており、北朝鮮やキューバの行き詰まりも顕現化してきました。こうした中で、従来は世界をリードし、必要に応じた救済策、中和策を取ってきたアメリカが、オバマ“死に体政権”の外交と内政の迷走もあって、世界の混乱、不安定化を治める手立てを全く喪失しているのが現状です。
当に世界中が、”乱気流“に巻き込まれた状況にある訳です。
 
前世紀末から今世紀初めにかけて、一部欧米の歴史学者や哲学者が、「冷戦が終了し、21世紀は“グローバル化”で世界は一つになる」などと、夢物語を書いてベストセラーになり、世界を欺いてしまった訳で、むしろ「グローバル化が世界の混乱と対立を加速させる。」と予言して欲しかった次第です。今や、各国とも単独では何も決められない、事態に陥ってしまったようです。
なかでも、日本は今回の人質事件によって、こうした渦に巻き込まれてしまったのですから、国を挙げて平和ボケから目をさまし、現下の危機管理に備えるべく、一刻も早く「国家と国民個々の行動規範を確立」して置くべきでしょう。テロ集団の脅しに負け、策謀に乗る愚は絶対に避けなければなりませんし、新たな誘拐を未然に防止するため、ジャーナリストの取材でも「エンベッド」と呼ばれるような、米欧部隊やイラク兵・クルド兵などに同行するしか渡航を認めないなど、安全性を確実に高めることが、死活問題解決のカギになると思われます。
 
テロには屈しないという堅牢不抜の態度は不可欠とは言え、日本は英米等とは違ってテロ軍団に軍事力で立ち向かうことも出来ませんし、またそうしたパワーに頼るのは危険性を増すので、どうしても非キリスト教国、非ユダヤ教の神道の国であって、非イスラムではあるものの、反イスラムではないことを、親日イスラム国のトルコやインドネシア等を経由して訴え、あくまでも平和的共存を求めるという論点を貫くべきであろうかと考える次第です。
但し、「憲法9条を守り、こちらが戦争を仕掛けなければ平和が得られる」と言った平和ボケが通用しないのがテロリストの世界であり、その辺に関しては内外各分野の智恵と情報を集約し、間接ルート等でテロリストとの折衝にあたることが不可欠だと思います。
併せて喫緊に配慮すべき重要事項は、中東他の海外と国内も含めての日本人・企業の安全確保点検体制確立、国際的インテリジェンス機能(スパイ諜報員育成)確立と孤立回避、国家・民間別の危機管理責務の分担規定などに加えて、先ず最優先すべきは、国際広報発信力の強化―迅速正確な情報開示であり、少なくとも日本が十字軍の一味だといった誤解を与えぬよう、「積極的平和外交」と「自然崇拝信仰国民」を訴求しなければなりません。
併せて、中東圏に戦闘員として参加中の諸外国人たちが帰国するなり、第三国へ立ち寄るなり、テロを世界的に再生産することに対しても、備えが欠かせません。
昨今、警戒を強める中露欧米諸国に比べ、日本の出入国管理の甘さは、先般のカナダ・オタワにおける国会議事堂襲撃殺傷事件のような事例に見舞われる危険性も大なのです。
 
世界の乱気流化は、単に武力衝突や中東の政情激流・テロなどの地政学にとどまらず、今やマクロの金融危機、人口過不足、気象環境問題、疫病リスク、情報通信リスク、技術や商圏の侵害等が常態化する新潮流が、企業経営や学術文化にもおよんでおり、これを、20世紀末の米国軍事用語:in flight dove(Volatility不安定,Uncertainty不確実,Complexity複雑,Ambiguity曖昧)に因んで、「VUCA 世界に備えよ」との世界的大合唱が各界にも起こっております。
この新潮流に流されない為には、変幻自在・臨機応変・融通無碍・現場即応・隠密迅速行動・自立と共栄などの国家運営、企業経営、学術文化活動が求められると思量致します。
ある意味で我が国の多神教的思考、幅広くグレーゾーンを持って、微妙な色合いを見定めて決断する姿勢、協働現場力などが、VUCA時世の競争に勝ち残れるのではないかと思えます。
但し強みは弱みの表裏でもあり、事なかれ主義や優柔不断の外交下手だけは断固排すべきでしょう。

 

最終更新日 2021年10月18日

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