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第百二十五話:「野分・台風・ハリケーン・サイクロン」

2021年9月3日

昭和人間の筆者には「のわき(のわけ)」という古風で気取った

言葉は使えませんが、かといって、言いなれた台風には、タイフーンという
英訳があるので、これをアメリカで会話にしゃべっても通用しませんでした。
さらに南アジアに行くと、暴風雨はサイクロンと言わないと
通じないことも体験しました。
 
野分とは、台風の正体・熱帯性低気圧の渦巻も知らなかった昔の人々が、
二百十日、二百二十日前後に、猛烈な暴風雨が襲って来て、野の草を吹き分ける
表現だと言われておりますが、源氏物語や枕草子にも見かけられるので、
古代からの標準語(大和言葉)だったようです。
 
高浜虚子の「大いなるものが過ぎ行く野分かな」の名句が、
「野分」の雰囲気を見事に表現されており、「台風」の語より歴史を感じさせ、
遥かに奥行きのある季語であることに気づかされます。
 
吹き飛ばす石は浅間の野分かな      松尾芭蕉
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな      与謝蕪村
鷲の子や野分にふとる有磯海       向井去来
猪もともに吹かるる野分かな       松尾芭蕉
一番に案山子をこかす野分かな      森川許六
 
序でに、台風の語源ですが「タイフーン」とは、アラビア語の
「クルクル回る」の意とか、ギリシャ語の「風の神」とか、中国語の「大風」
「台湾近海の強風」とか諸説あり、北太平洋西部乃至南シナ海に発生します。
ハリケーンは、カリブ海、メキシコ湾、北大西洋西部、北太平洋東部に発生し、
サイクロンは、インド洋、南太平洋に発生するので、夫々地域性を帯びた言葉が
用いられているようです。
 
颱風の浪見て墨を磨りにけり       山口誓子
颱風の去って玄界灘の月         中村吉右衛門
颱風の心支ふべき灯を点ず        加藤楸邨
 
世界を飛び回ってビジネスをして来た体験から、もう一点気づいた点を
付記しておきますと、欧州大陸西部の伝統諸国(伊西仏独蘭など)には、
タイフーンやハリケーン・サイクロンに類する言葉がないようです。
「西欧人は自然を意のままにしようとするが、東洋人は自然に帰し、
従おうとする」と言われますが、ひょっとして、季節ごとに毎年暴風に
襲われることが無い欧州民族の”自然に対する態度の違い“の重大因子を
成しているのは、この事象に由来しているのではなかろうか、
と思う次第です。

最終更新日 2021年11月14日

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