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第十八話:「南シナ海、ウクライナに見る中露問題。その共通点・相違点」

2014年5月18日

南シナ海パラセル諸島とスプラトリー諸島に関する領有権を巡る中国、ベトナム、フィリピン間の争いが緊張を高めております。中国は、60年代のベトナム戦争前後の混乱に乗じて、70年代にはパラセル諸島全域を掌握し、80年代終盤スプラトリー諸島の一部も実行支配下に置いています。一方、米軍がフィリピンの要請もあり撤退したあと、フィリピンが領有権を主張していたスプラトリー諸島のミスチーフ環礁を90年代中盤に占拠してしまいました。中国の狙いは、海洋権益の確保(資源埋蔵量と海洋交通の自由確保や漁業権拡大)と軍事力(特に米海軍のプレゼンスを殺ぎ、西太平洋進出の足掛かりとすること)の拡大にあるとみられます。もちろん同様趣旨での、尖閣列島保有権主張や度重なる我が国の領海内への不法侵入や、今春の根拠なき領空圏設定なども中国の確信犯的とも言える我田引水戦略の一環でしょう。
 
今回の唐突とも思える中国によるパラセル諸島周辺における海域石油切削作業開始は、明らかにベトナムによる対中抵抗の本気度を伺うとともに、先のオバマ大統領のアジア歴訪で発表した安保の重心をアジア太平洋に移すと言うピボット戦略の本気度も試す二つの目的があったと思えます。特に米国がウクライナ情勢にともなう対露外交に関わっているタイミングも計り、またオバマ大統領が「領有権問題に米国は関与しない、それは平和外交的に解決すべきで、力の行使は差し控えるべきである」と自ら警棒を納めた腰の引ける姿勢を続行しているのに乗じて、ロシアのプーチンがクリミヤ併合時に見せた剛腕ぶりにも触発されたものと考えられます。また、ベトナムは米国とは安保同盟国ではないながら、南部カムラン湾を軍事拠点にしたい米軍の意図に応じ、最近軍事協力関係を強化しつつあり、一方で軍事装備や湾岸の再開発に関しては、これまでロシアの資金・技術支援と武器調達を仰いで来たベトナムは、対米露の狭間にあって、軍事と経済上のパワーバランスの再検討を強いられていた状況下に、中国が割って入ったことも緊張を増して居ます。
 
ただ、今般の中越衝突に関してはベトナム政府の姿勢は明白で、中国海警局船の激突による自国の沿岸警備隊船舶損傷に至る経緯や戦闘用の強水圧放水の暴挙による自国乗船員の負傷具合などのビデオを海外報道諸機関へ広報公開するとともに、丁度ミャンマーで開催中のアセアン外相会議で参加10か国は「中国へ自制を促す趣旨」の共同声明を全世界へ向けアッピールしました。(これは、我が国の民主党政権時の尖閣における同種事件の際の腰が引けた対応とは雲泥の差です。)例によって、中国側はうそ八百を並べて、ベトナム側が自国船に体当たりしてきたなどと広報しましたが「中国側の武力行使を伴う脅しは国連海洋法条約順守違反である」ことが、ベトナム側の公開映像で実証され、藪蛇効果を生んでしまったようです。併せて、国際社会や、アセアン10か国相手では不利と見た中国側は、急遽、ベトナムとの一対一折衝を求めております。
 
尤も、国連は中国向け制裁には全く無力であり、やはり効果があるのは、多国間による経済制裁ではないかと思います。現にロシアのプーチン大統領が、対ウクライナ戦略と行動を、このところ微妙に変えてきております。クリミヤに続きロシア編入を期待する東部ウクライナ二州の住民投票を延期させようとしたり(二州はこれを無視して投票を実行し、結果独立宣言しましたが)、国際動静を無視してまでプーチン政府が強硬手段を講じるリスクを冒しそうもないとみられます。その理由として、考えられるのが二点です。まずクリミヤが黒海に面した旧ソ連時代から積み上げてきた数々の軍事基地機密を保持し、そこから地中海へ出るルートの確保という軍事的、海運物流的妙味も併せ持つのに対し、民族問題を抱え、経済的に貧窮している当該二州にはそうしたメリットはありません。そして、もう一つがロシア政府の損得勘定ではないでしょうか。対EUや我が国向けのLNGほか化石燃料の売り上げはロシア経済のカギとなっていますから、NATO側他の経済制裁がこれ以上強化されれば、国家的危機に及びます。冷静で強かなプーチン氏が今更そこまで無謀な施策に走る前に、国家としての損得勘定と長期的な対米、対欧、対日外交を考慮するはずだと考えるものです。
 
ところが、中国の習主席は一見プーチン氏に触発されたのか、強気一辺倒で領土拡張路線を突っ走っておりますが、欧米や南北朝鮮以外の全アジアを敵に回していると言う現実を十分に自覚してないように思え、併せて内政問題の多発による突き上げを外交に振っているとも考えられます。その外的対象である欧米アジアや日本などが、中國經濟に深入りしすぎ、投下資本没収や中国資本の逃避等を過剰に畏れる結果、経済制裁まで持ち出せない状況が、中国を強気にさせているようにも見受けられます。軍事パワーを矛に納めたかのオバマ平和主義“口先だけの外交”が、露中の虚勢を張らせた点には共通点が見受けられますが、経済制裁の深化を気にしつつ、長期の国家戦略を熟慮してクリミヤ以後は、やや態度を軟化させつつあるロシア政府に比べ、中国政府の方は、経済制裁などあり得ないと強気一辺倒を通し続けており、この面では、両者間に大きな相違点を感じます。その背景には、支持率が高く長期政権を企図するモスクワ政権に対し、景気下降と格差問題、シャドウバンキング危機と、強制併合した異民族諸地区の反政府暴動テロなど、内政に深刻な諸問題を抱え、共産党や軍部に不支持が広がり、突き上げが激化する北京政府とは、大きな隔たりがあるようです。兎に角最近の中国政府の対外姿勢に強い焦燥感を覚えます。
 
今、欧米や日本とアジア・豪州による中国包囲網が、彼国のこれ以上の傍若無人ぶりを許せない処まで達したなら、厳しい経済制裁を課せば一挙に追い込めるものと考えます。勿論一時的な経済混乱は避けられませんが、彼我の損傷の大きさを天秤に懸けた場合、中国の破綻は間違いないでしょう。習政権には、そこまで読みこんで態度を改める知恵や備えがないのか、それとも、すでに内政で火がついてしまって打つ手がなくなってしまったのか、を分析しておく必要がありそうです。少なくとも、この秋予定される北京APECの議長国である中国にどう向き合うか、参加国間の意思統一が急がれます。一方、ロシアに対する経済制裁に関しての我が国の立ち位置は微妙です。北方領土問題あり、サハリン開発プロジェクトあり、さらに最重要なLNG、赤いガスの輸入が儘ならなくなりますと、夏に向かって全国的な電力供給不足が生じてしまいそうです。
 
相次ぐ領土問題の解決に国際連合が務めを果たすべきではありながら、常任理事国である露中の拒否権や非力な事務総長を思うと、現「国連」の無力を痛感します。そして、相反して旧国連(国際連盟)の果たしていた大きな国際的役割と実力が思い起こされます。当時、その事務次長であった新渡戸稲造氏が、バルト海オーランド諸島帰属問題(フィンランド、スェーデン、ロシア間の紛争)を見事に解決した有名な「新渡戸裁定」です。新渡戸氏の座右の銘は「急がず、休まず」だったそうですが、ウクライナを第二のユーゴにしない為、そして東アジアにおける中国によるベトナム、フィリピン、マレーシア、韓国、や我が国に対する一方的な領海・領空圏の主張を「急がず、休まず」裁定してくれる第三者機関、乃至は国際派英傑人の登場が待たれます。それを待つまでもなく、今日本がとるべき喫緊の手段は、あくまでも孤立を排し、強い絆で結ばれた同盟との「急がず、休まない」協同外交ではないでしょうか。
 

最終更新日 2021年9月26日

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