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第十七話:「商船三井貨物船の拘束解除と対中危機意識」

2014年5月11日

中国上海市の海事法院が差し押さえていた商船三井の鉄鉱石運搬船が、総額約40億円と言う
供託金を支払うことで拘束が解除されました。
元々この問題は、1936年に大同海運が、中国企業から借り受けていた船舶が、
旧日本軍に徴用され、日中戦争時に沈没したことに端を発し、事後50年も過ぎた1988年に至って
中国側原告が、第二次大戦後大同海運を吸収合併した商船三井を相手取って訴訟を持ち出したもので、
2007年損害賠償金約29億円の支払い命令を出し、2010年の二審判決で原告勝訴が確定していました。
商船三井側にすれば、差し押さえが長引けば事業活動に影響が大きいし、最悪は船舶が競売に
かけられるとの恐れもあり、圧力に屈して和解金を払う羽目になったようです。
この間、日本政府や官僚の出番がなかったのか、多くの疑問が想起されます。
 
まず、商船三井が大同海運を吸収合併した時、なぜ過去の債権債務まで十分な法務会計的精査を
行わなかったのか(そして、別途リスクフリーの道を選ばなかったのか)が問われます。
また、裁判に勝てる見込みがなく示談に持ち込むつもりだったなら、なぜもっと早い時期に、
少額でケリを付けようとしなかったのか、あるいは逆に、払うべきでないと折衝を続行して来たのならば、
なぜ、とことん頑張らなかったのか、理解に苦しみます。
海運事業のようなグローバル物流事業である以上、この会社に必要不可欠な筈の
“国際法にも明るい顧問弁護士”が複数居られたのか、居たならどんなアドバイスをしていたのか、
ビジネス上の疑問符が解けません。
ましてや、相手が共産党主導国家である以上、この問題の初動段階から、
どの程度「政官民の協同歩調」を取っていたのか、もし1972年の「日中共同声明」に記された
「中国政府の戦後賠償請求の放棄」にもとる案件だとするなら、なぜ日本政府がもっと前面に出て
外交交渉に持ち込めなかったのか、この辺りが政府高官の遺憾表明だけに留まっているマスコミ報道では
納得できかねます。
なんだか、一民間企業に責を負わせて政治や官僚が逃げを打っているのか、
それとも商船三井側が外務省・経産省や政府への正確迅速な報告を怠ったのか、疑念と共に、
何処にも対中危機意識が見受けられないことに、大いなる不安と不信感を覚えます。
 
特に気がかりなのは、今回の決着ぶりに味を占めて、「圧力をかけると、日本企業が簡単に譲歩する」と
他にも中国各地で提訴されている民事訴訟を勢いつかせるのではないか、あるいは日本政府の
煮え切らない態度を見て、中国が反日団体等も巻き込み国を挙げて対日強硬手段を講じ、
戦時賠償訴訟や各種民事訴訟等を乱発するのではなかろうかと畏れます。
こうしたことも含めて、今こそ日本政府、外務省と民間企業は、更なる連携を深め、国際法務に長けた
弁護士陣を強化し、あらゆる案件に関し十分な情報を収集分析し、事態を的確に把握し緊密な意思の
疎通を計り先手対策を未然に打っておく必要があると警鐘を鳴らす次第です。
日本企業が資本を撤退し、基礎技術ノウハウを封じ込めれば、困るのは中国の産業界であり、
息の根を止め得る効力があることを思い知らせるべきでしょう。
 
すでに、天津市でも、似通った対日訴訟が準備されているようですし、マスコミ報道によれば、
損害賠償総額が25億元(約425億円)にも上る可能性あり、しかも当時の日本側船舶会社の
存続等が不明な場合、日本政府を提訴することも辞さないとのことですから、
背筋が寒くなる思いです。今回の場合における日本政府や外務省の「及び腰」を見透かし、
和解交渉で大金を巻き上げられそうと見込んだ上で、戦争賠償訴訟としてではなく、
裁判所に受理されやすい民事事件として位置付ける思惑なども取りざたされているそうなので、
日本側関係者には褌を締め直して頂きたいものです。他にも、中国人元労働者による
「強制連行」訴訟が北京の裁判所で初めて訴状を過日受理したことが報道され、
これと歩調を合わせた対日強硬派による訴訟が続発している事実も気がかりです。
こうした暴挙は、習政権の仕掛ける歴史戦の一環であり、これを歯止め・排除する為には、
日本側政官民が「昔日の日本株式会社時代」のように情報と戦略を一元化し、明確な反論を持って
立ち向かうと共に、韓国他への飛び火を防止する為にも、
正義と法の国際的良識を以って広く世界諸国へ向けて広報外交を徹底する覚悟を
固めなければなりません。
 
オバマ大統領のアジア歴訪も、あくまで米国のアジア圏安保(軍事的コミットのみに限定)の
確認程度の発言に終始し、例によって対中外交に関しては、腰が引けた外交姿勢を変えませんでした
(因みに、尖閣の領土問題には中立を態々付言したし、韓国でも歴史問題で彼の国の主張の肩を
持つような発言もありました。マレーシア、フィリピン訪問でも同様な姿勢で、正面から中国封じ込めや
反撃に言及せず、むしろ中国との対立を回避したいと言う姿勢を貫き、我々をがっかりさせました。)
従って、強かな習主席が軍事攻勢ではなく、例えば大量の漁船と漁民を装う工作員を尖閣に送り込んで
占拠した場合、日米安保は何ら役立ちませんから、日本単独の危機管理としては、
集団的自衛権よりも先に、個別自衛権の体制確立や領土防衛の非軍事的戦略・戦術と
十分な総括的危機管理システム確立を進めておかなければならないと考えます。
TPP合意を得なかったことも気がかりです。
 
歴史家の言だったかに「危機には無能なトップほど、無駄に動いて周辺を混乱に巻き込む」とありますから、
不動産バブルが弾けそうで国内経済破綻の恐れや異民族反動・貧民暴動と、
米国と新型大国関係進展願望の内外政ジレンマを抱える「習中国」と、同じく経済不況と船舶沈没事故を抱え、
急速な支持率下落に怯えた「朴韓国」こそ、日本が余程神経を研ぎ澄まして対応して行かないと、
どんな危害をもたらすのか、極めて不穏な雲行です。
その意味でも、中韓が含まれていないが、豪州やAseanを包含するTPP(正確には、
環太平洋間戦略的経済連携協定の意)を単なる貿易協定と軽視せず“安保・外交戦略”面も重視して
一刻も早く合意して置く重要性を痛感します。

最終更新日 2021年9月25日

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