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第十話:フランス国際漫画祭での出来事について思う(ケン幸田)

2014年2月9日

フランスの田舎町アングレームでは、毎年「国際漫画祭」を開催し、漫画出版物が展示され、
優秀作品が表彰されるなど、有名な映画祭に準えて「漫画におけるカンヌ」として
世界的なイベントに成長してきました。
元来、世界最古の漫画「鳥獣戯画」を生みだした日本は伝統的にも漫画大国であり、
現代でも妖怪もの、活劇もの、ロボットものから少女漫画に至るまで、世界の漫画ファンを引き付けて、
まさにアニメも合わせてトップランナーを務めております。
これまでにも、水木しげるが最優秀賞を受賞したほか、多数の日本人受賞者を生んでいる
イベントなのです。
毎年20万人以上動員しており、日本のコミケットに次ぐ世界二番目の大きな催事で、
あくまでも文化交流行事が建て前でしたが、先月末開催された今年のイベントは
韓国が政治利用を企み、従軍慰安婦関連の漫画作品を数十点も展示したことで、
これに過激に反発した日本のある民間団体が問題を惹起し、
一部世界に知れる事件となってしまったようです。
 
御存じのように、観光大国フランスには、世界トップの毎年8千万人を超える観光客が訪れ、
第二位のアメリカにも約7千万人が訪れているのに、日本観光客はわずか1千万人ですから、
大きく差が開いております。
この主たる理由として考えられるのは、フランスやアメリカが各国主要都市に展開する
「文化センター」を通じたPR効果ではないでしょうか。要するに対外文化外交努力の違いが、
観光客誘致にかなり影響しているとみられます。
 
特にフランスの場合、パリ以外でも各地の観光客誘致運動は極めて巧妙で、
ワインのボルドー、ブルゴーニュやリゾートのニース、カンヌなど有名地以外にも特筆すべきなのは
、世界的には、ほぼ知名度のない農漁村や、人口が千人前後と言った小さな山村などでも、
何か訴える特産物(チーズ等の農産物、刺繍など繊維、染色、織物、工芸品等々)や、
あらゆる文化活動、イベント・展示ショーなどをフィーチャーして、外国人が訪ねてみたくなるような
巧みな仕掛けを振りまき、そうした努力を継続していることが、自国の人口の150%もの
観光客を呼び入れる成果につながっている訳です。
アングレームの漫画祭も、こうした狙いの一つであり、その目指すところは、
カンヌ映画祭に肩を並べようとの想いから発したものなのです。
 
日仏の文化交流に関しては、近世、パリの印象派画家たちに大きな啓示を与えた浮世絵や、
陶磁器・伝統工芸品をはじめとして、藤田嗣治や岡本太郎たちの足跡から、カンヌを通じた
黒沢、小津、稲垣監督たちの名作映画、そしてファッションならケンゾー、コシノ姉妹たち、
社交界でも岸恵子、デビ夫人と言った知名度のある文化人を支えた政財界・民間人の
諸活動がどれほどだったかと言えば、総じて“われ関せず”に推移して来たのが実情ではないでしょうか。
こうした知名人の実績を通じた文化外交を幅広く、各界へ広げ蓄積していたなら、
おそらく今回のような誤解や無知に基づく事件も発生しなかっただろうし、
かりに揉めた場合でも、もっと日本贔屓のサポートが得られたはずです。
まして昨今は、和食に始まり、漫画やアニメ、先端工業技術力などでも世界的評価を得ている日本が、
点や線でなく、面と体で、コンスタントにフランスの諸団体との交流を積み重ねていたなら、
今回のような、韓国の横暴な企画や実行を未然に防ぎ得たはずなのです。
 
その反対に、日本に追いつけとばかりに執念を燃やし続けてきた韓国の場合、
政府、財界のバックアップはもとより、文化外交にいたる総合的努力は、必死だったことと推察されます。
「慰安婦」問題の世界へ向けた発信は、韓国女性家庭省が、大統領、外務官僚、
スポンサーシップを一手に引き受ける財界や海外在留者、移民者等と束になって、
中央から地方政治や諸文化団体にまで及ぶロビー活動の徹底、かてて加えて、
韓国の文化外交、ジャーナリズムを押し立てて来たことを、日本国全体で、
果たしてどこまで真剣に対応して来たでしょうか。アメリカ、中国で、これまですでに起こっていることが、
それがますます過激化している現象が、欧州でも起こっていたと考えれば、
その対応の落差が明らかでしょう。これが、まず根源的な問題点だったと考える次第です。
 
日本の場合、まず政治主導の国家外交が断じて軟弱であり、それをカバーすべき
パブリックディプロマシーもほとんど皆無と言えるし、ましてや民間外交に至っては、
おざなりの微小な点を細い線で狭く浅く結ぶだけがやっと、と言うような微弱なものに過ぎず、
面や体で、二次元・三次元・多元外交を進める米英中仏独などとは天と地の大差と言うか、
まるで比較にさえならないし、一方我が国より、国力も文化力もはるかに劣るも韓国は、
自国出身の国連事務総長を押し立て、政官民が団結して対外活動を強化して来ただけに、
PRパワーは大差で日本をしのいでいる事実は拭えません。
今回のケースは、そうした背景が生んだ悲劇ではなかろうかと思います。
さらには、外交交渉上の語学力や表現力、根回し、対象を吟味した寄付献金の積み上げ、
リーダーと組織力、何処と誰を味方につけるか、マスメディアへのアプローチなどに及ぶ“周到な準備”など、
日本人が改善すべきポイントが数多くあります。
 
今般のケースで致命的だったのは、唐突に表舞台へ登場して、韓国展示内容に抗議した
私的団体(漫画文化とは無関係と思われる市民団体?)が、なぜか右翼政治活動団体と
断定され排除される結末となったのには、色々な不幸が重なったとも考えられます。
当然のこと、主催者団体や管轄地方議会への事前の根回しが不足していたようですし、
文化行事現場でのルール違反もあったかもしれませんし、さらに記者会見を開くなら、
極めて重要だと思われるジャーナリズムに対するパブリックコミュニケーションの戦略面で、
特に警戒すべき左派系の新聞記者対応戦略などに、初歩的なミスがあったのではなかろうかと畏れます。
また、そのTPOと言いますか、タイミングも私有施設を選んだ場所の選択も、問題があったのかもしれません。
韓国側の展示内容には、明らかな行き過ぎがあったようだし、
少なくとも「芸術ではなくプロパガンダ」だったようですから、日本側が激さず、冷静に「文化的」に、
TPOを選んで、妥当なメディアに、ソフトに訴えれば、別の効果が得られたのではなかったでしょうか。
それと、我が国政管の、フランス大使館、外務省、文科省などのサポートにも反省点があった筈です。
 
ビジネスの視座から見ますと、マーケティング戦略に「金太郎でなく、桃太郎であれ」という教えがありますが、
「強い金太郎が、熊にまたがりマサカリ担いで、一匹狼で戦いを挑む」ようでは、一敗地にまみえ易いが、
「天空を支配するキジの視座、犬の嗅覚と地上の凝視、サルの知恵と先駆けして森を探る
先見・洞察力をチームとした人間力の桃太郎」の備えを心がければ、勝てる確率も高くなる訳で、
やはり団結力と周到な観察・洞察力と智謀、リーダーシップなどが、外交でも、文化交流でも、
最も重要なるポイントになると断言して良さそうです。
 
幸いにも、今回の事件は全世界に広く報道されたようでもなく、限られた範囲で比較的短期に
とどまったようであることと、フランス国内にも、あまりにも一方的な過激な対応ミス
(実際は日本側のみを排除したが、けんか両成敗で韓国も同時に裁くべきでなかったか)の反省と併せ、
韓国の展示内容が結果的に文化の粋にとどまらず、政治プロパガンダだったのではという冷静な
論調が出始めていることから、やや溜飲が下がる思いも致します。
この際、日本政府、外務省を筆頭に関連の官・各省と漫画団体を含む民間、そしてスポンサーを
務めるべき実業界が相携え、地道に“静かながらも執拗なる意見具申を末長く続けるべきだと思量致します。 

最終更新日 2021年9月25日

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