Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content

細胞老化と癌(その8 ): 癌の増殖、転移を防ぐには:ミトコンドリアmtDNAの抗酸化 米国の億万長者は「終わりなき生命」研究に多額投資

2021年5月2日

がん化遺伝子を正常遺伝子に交換する技術や、抗体をがん化遺伝子と戦う抗体の
ターゲットへの運び込み、一旦取りだして編集や強化後に元に戻す画期的な新薬や治療法が発表されるようになりましたが、癌(がん)はパターン化されない自在な動きを見せることがあり、重篤な副作用の発生が避けられません。
さらに問題なのはこれらの治療法は手間と費用がかかるうえに、海外に高額な特許料を支払うケースがほとんど。
だれもが完全征服できる時代はいつになるか、まだまだ道は険しいでしょう。

癌の遺伝子治療は高額になりますが、何十年と続く環境や毎日の*食生活、生活習慣に気配りする予防は治療費用と生活の質を考えればパフォーマンスが良く、納得できるでしょう。
*(発がん物質を避ける食生活は割高になります)

「癌は一日にして成らず」。
がん遺伝子が活性化するまでには人体の防御システムとの永い戦いがあります。
がん遺伝子が活性化する最大の原因は加齢ですが、中高年のすべてが発症しているわけではありません。
発症率は70代でも3人に1人くらい。未然に防いでいる方々がメジャーです。
発症メカニズムを学び、何十年と続く環境や、毎日の食生活、生活習慣に気配りすれば、
勝ち組となるのは難しいことではありません。
すでに発症し、治療を受けた方も再発防止に勝ち組参入を目指してください。
今からでも遅くありません。

 

*医学的には上皮細胞に発症する悪性腫瘍が「癌種:carcinoma」、それ以外の部位の悪性腫瘍を「肉腫:sarcoma」
あらゆるところに発症するのが「がん:cancer」と分けていますが本稿では全てのケースを誰にもわかりやすい一般的な「がん」または「癌」と表しています。

 

1. 米国の億万長者が「終わりなき生命」の研究に多額の投資

2018年1月末ごろのニューヨークタイムスに「The Men Who Want to Live Forever」という
コラムが載りました。
訳して「永遠の生命を求める人々」
「死は回避できる」「寿命は永遠」などをテーマに、その達成を目指す、米国西海岸の資産家グループが取材対象。
Googleがカリコ長寿研究所(Calico longevity lab)を設立し、アマゾン創立者の
ジェフ・ベン(Jeff Bezos)がカリコの「長寿」「永遠の生命」研究に多額の投資。
多くの億万長者たちがグループを作って、独自に生命科学を研究する法人
The National Academy of Medicineの「終わりなき生命」研究に多額の投資をしているそうです。

IT産業の巣となっているシリコーン・ヴァレーの資産家たちの思想的なバックボーンの一人がカリフォルニア大学アーヴィン校の*マイケル・ローズ教授。
スペイン時代からフロリダ州などに伝わる「若返りの泉:The Fountain of Youth」伝説の伝道者のごとく、ウェブ上に「マイケル・ローズの55の提題:*Michael Rose’s 55 *Theses」を掲載し健康寿命のあり方を提唱しています。
*Professor Michael Rose;Director and Professor at the Department of Ecology
 and Evolutionary Biology : the University of California, Irvine
*「55 Theses on the Power and Efficacy Of Natural Selection for Sustaining Health」
*Theses(ティーシズ:博士論文などの提題)

 

2. ミトコンドリア遺伝子(mtDNA、mtRNA)が癌の転移、湿潤に関与

細胞内小器官*ミトコンドリアを様々な角度から覗けるようになったことでミトコンドリア内に発見された細胞内DNAと類似するミトコンドリアDNAの機能解明が進んでいます。
筑波大学大学院 生命環境科学研究科の林純一教授らは特定の発がん性化学物質がDNAよりもmtDNA(ミトコンドリアDNA)に結合しやすく、がん組織のmtDNAには正常組織よりも高い割合で突然変異が蓄積していることを発見しました。
一般的には細胞内で眠っていた癌(がん)遺伝子が何らかの刺激により活性化し正常な細胞周期が機能しなくなった制御不能状態が癌(がん)といわれますが、その細胞分裂の過程(周期)が観察できるようになってからは、幾つもの新たな発見がありました。
細胞分裂が完成し次の分裂が始まるまでの一連の過程は細胞周期(cell cycle:セル・サイクル)とよばれます。
細胞周期では*DNAやミトコンドリアなどの細胞内小器官の複製がおこなわれる時期が間期(interphase)と呼ばれる最も重要な過程。
林教授らはここに癌予防の鍵を見出しているのでしょう。

*ミトコンドリア(mitochondria):mitochondrionの複数形
*DNA(デオキシリボ核酸:Deoxyribonucleic acid)
*mtRNA(ミトコンドリア・リボ核酸:mitochondria Deoxyribonucleic acid)
*RNA(リボ核酸:Deoxyribonucleic acid)は、主としてDNAの遺伝子情報を転写し核外で活性を持つ核酸.
タンパク質塩基の組み合わせがDNAとやや異なります。
RNAの主たる構成要素ヌクレオシド (nucleoside)は様々な塩基と糖が結合した化合物.
ヌクレオシドにリン酸基が結合したヌクレオチド (nucleotide) が細胞外に浸出してシグナル伝達など
様々な働きをします。
2,000種以上が存在するといわれますが、幾つかに大別され、最近では
エクソソーム(Exosome)の含有物として体内での様々な働きが可視化されるようになりました。
RNAはmtRNA、mRNA(メッセンジャ-RNA)、miRNA(マイクロRNA)などいくつかで括られていますが、
DNAを含めたこれらのいくつかの核酸やその他物質を内包した*エクソソーム(Exosome)は
最近のホットな研究ターゲットです.
*エクソソーム(Exosome):細胞外基質(Extracellular Matrix)や体液で活性化する細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一種.
親細胞の性格を持つといわれ、癌細胞から放出されるエクソソームは拡散、転移の主犯ではないかと
疑われています.

3.筑波大学林純一教授らのミトコンドリア研究

筑波大学の林純一教授はミトコンドリア研究のオーソリティーの一人.
多くの研究論文が林純一教授研究室や、他大学との共同研究により発表されています。
「細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアは、老化やがん、生活習慣病の
原因にもなる」と確信し、ミトコンドリアとミトコンドリアDNA(mtDNA)を
主要ターゲットとして様々な研究をしています。
以下はその一端。
「ミトコンドリアDNA(mtDNA)に特定の病原性突然変異が蓄積することによってがん細胞の
 転移能が高まる」
「ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異がリンパ腫や糖尿病の原因となる」
「ミトコンドリアと男性不妊症」
「子供に遺伝するミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷を予防できる技術」。

 

4.癌(がん)の転移と拡散は抗酸化物質が防ぐだろう

林純一教授は「ミトコンドリアDNA(mtDNA) の特殊な突然変異は、正常細胞の
がん化の原因にはならないが、がん細胞の悪性化の原因にはなりうる.
転移の原因は多様であっても、 *ROS(活性酸素類)の過剰産生が転移の原因である場合は、
*抗酸化剤がヒトのがん転移の治療に有効かもしれない」と述べています。
ミトコンドリアのがん遺伝子が抗酸化物質で弱体化するだろうことは
ペンシルバニア大学アブラムソンがんセンター(Abramson Cancer Center)の
ダン博士も「癌(がん)と代謝」の論文中に
「癌の代謝では活性酸素が生じ、遺伝子変異を起こす」ことを指摘して、抗酸化物質の有用性を
説いています(第6項に続きを掲載)。
*ROC(Reactive Oxygen Species)活性酸素。
 大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称で
 体組織に酸化ストレスを与え、細胞損傷や細胞死の原因となる。
*癌の浸潤能や転移能の獲得防止に効果的な食品抗酸化剤には特殊な抗酸化物質を持つ赤ワインや、アサイー、ビルベリーなどフラボノイドのアントシアニン含有食材、天然ビタミンC、
天然ビタミンE含有食材があります。
醤油、魚醤に含まれる天然のグルタチオン(アミノ酸のペプチド)にも抗酸化作用がありますが
化学合成されたビタミン、アミノ酸の長期摂食は有害性もありお薦めできません。

近年はこれらに加えてレスべラトロールのようなサーチュイン活性化ポリフェノール(SAC)である
フィセチンが注目されています。
*フィセチン(fisechin):赤ブドウ、イチゴ、アカシアなの種子などに含有される
ポリフェノールのフラボノイド。

ポリフェノールとは

*サーチュイン活性化物質(sirtuin activating compound:SAC)は染色体に結合している寿命決定分子 テロメア(telomere)に結合する物質。
 「ノーベル医学生理学賞(2009年)を受賞したテロメラーゼの発見:
 テロメラーゼはレスベラトロール研究の土台」

 

5. 古くて新しい、癌(がん)の「ワールブルク効果」

癌細胞のミトコンドリアに関わる多くの研究がドイツのノーベル医学生理学賞受賞者
オットー・ワールブルク(Otto Heinrich Warburg)が1920年代に
発表した「がん化細胞の代謝、呼吸、光合成の定量調査」をベースにしているといわれます。

「有酸素下で行われる癌細胞組織の代謝では、その糖質消費が通常組織の10倍以上」との論文は
ワールブルク効果( the Warburg effect)として広く知られていますが、その骨子である
「好気的解糖:aerobic glycolysis」の分子レベルでの解明は後の研究を待つことになります。
20世紀末ごろより、21世紀に入ってヒトの遺伝子解析が完了し、顕微鏡と使用技術の進歩に
ともない、数々のミトコンドリアと癌に関する論文が発表されるようになりました。

世界の優れた大学トップテンに入り技術系学生の教育に評価が高い*スイス連邦工科大学の
コッペノール教授(Willem H. Koppenol )は教材として「ワールブルグ博士の癌細胞代謝に
関する昨今の概念への貢献*」を紹介する論文を書いています。
* Otto Warburg’s contributions to current concepts of cancer metabolism
 * スイス連邦工科大学:The Swiss Federal Institutes of Technology

 

6. 癌細胞は代謝で活性酸素を生じ、遺伝子変異を起こします

ワールブルク効果である好気的解糖(aerobic glycolysis)は古くて新しい発見。
今でも癌と好気的解糖に関して数多くの論文が発表されていますが
ペンシルバニア大学アブラムソンがんセンター(Abramson Cancer Center)の
ダン博士(Chi V. Dang)は
「Links between metabolism and cancer:癌細胞と代謝の関係」の中で
がん細胞の代謝に関して以下のようにまとめています。
「癌細胞の代謝では活性酸素が生じ、遺伝子変異を起こします。
遺伝子変異によりがん遺伝子が活性化し、呼吸活性が低下。
がん抑制遺伝子*(別途解説)を不活性化させた結果、ワールブルク効果である
好気的解糖(aerobic glycolysis)に導きます。
これによって生じるグルコース(glucose:ブドウ糖)は大量の発酵糖質となり
癌細胞の栄養素として癌細胞を増殖させていきます。
カロリー過剰は癌リスクを増幅させ、カロリー制限は癌細胞から個体を保護しますが、
ミトコンドリアのオートファジーである損傷遺伝子のマイトファジー(mitophagy:自食作用)は
生体防御機構となっています」
「体細胞が酸素呼吸によらず発酵に依存することで細胞が退化し癌細胞が発生する」
との別の論文もあります。

 

7. 癌細胞組織の糖質消費をPET(陽電子放射断層撮影装置)で検査する意味

PET(陽電子放射断層撮影装置:positron emission tomography) は高価な医療機器ですから
設置医療機関は限られます。
かっては主として脳神経、脳卒中など頭部の検査に用いられてきましたが、
全身の部位の糖代謝レベルを調べることができるため、解り難い原発巣、拡散を発見するには
CT,MRIに較べて精度が高いといわれます。
設備があるところでは多様な検査に用いられ、必要な方には保険が適用されます。
発がん検査では全身に行きわたる放射線薬品(18F-FDG)を使用しますので、その被ばく量を
懸念もされますが、機器の放射線自体はCT,MRIに較べて少ないといわれ、
発がん部位検査(ワールブルク効果の腫瘍組織糖代謝レベル検出)に推奨されています。
ただし癌の形状確認にはPETとCTを組み合わせる検査が必要となりますから、放射線被爆は常に
検討されるべき事項です。
癌化細胞の活性化が考えられる患者には放射線被爆が引き金となることも予想されますから
適用の必要性は専門家の判断が不可欠です。

癌(がん)の治療には検査が必須ですから、被ばく量を軽減させるためにも不必要な
被爆は避けるべきでしょう。

最終更新日 2021年11月6日

おすすめの記事はこちら