加工食品の地溝油(黒心油)汚染は底なし: 政変で暴露された台湾大手食品企業の有毒食用油
2015年1月6日
1.地溝油(黒心油)スキャンダルは台湾現政権崩壊の危機
2014年9月から12月にかけて台湾では食の安全を揺るがす大きな不正が
次々に暴かれました。
2013年ごろより大手食品企業による加工食品の虚偽表示、詐称を消費者が
指摘するケースが度々ありましたが、摘発に至る過程で消滅してしまうのが
ほとんど。
これが統一地方選挙が近づいた2014年の後半になると様変わり。
僅か4ヶ月間で、ナショナル・ブランドによる発がん性有毒添加物使用など
大型のスキャンダルが3件も暴かれました。
中でも最大のスキャンダルは台湾と中国の大手食品企業が作る様々な加工食品に
再生廃油(下水などに捨てた油を漉して再生:マスコミは地溝油または黒心油と命名)、
飼料用油、工業用油脂など、食品に使用してはならない油分が広く使用されていたこと。
地溝油(日本読みで「ちこうゆ」)とは排水溝に捨てられた油。
黒心油は汚染で黒濁化している油という意味です。
??水油と呼ぶこともありますがこれは残飯からの意味。
地溝油などからはマーガリン、ラード、ショートニングが作られ、
インスタント・ラーメン、ラーメンスープ、マヨネーズ、
洋菓子、月餅、パイナップルケーキ、スナック菓子、アイスクリーム、
チョコレート、ドーナッツ、ハンバーガーなどの加工に広く使用されています。
この地溝油を使用して製品を作っている会社は大きい企業だけでも
200社以上。
揚げ物用食用油や調味料に地溝油を使用する外食の屋台、食堂、レストランは
無数と言えるほどの規模。
ファーストフードのモスバーガー、コンビニのファミリーマートまでが汚染されていました。
2.地溝油など有害食用油の健康被害とは
地溝油など不良な油の健康被害は二つに分けられます。一つは低質不良な油による過酸化脂質とトランス脂肪酸によるもの。
これらは動脈硬化を進め、慢性となる心臓血管疾患、脳卒中の原因となります。
加えて、黒くなった油を脱色、着色したり、悪臭を抑えるために、
違法な香料や色素などを添加することがあるために肝不全、肝がんの
原因ともなります。
食用油、油脂は加工食品の半分近くが使用しており、日常的に食されているだけに
摂食総量は非常に大きくなります。
悪質な食用油、油脂による健康被害の拡がりは計り知れません。
子供や、妊娠している人、出産予定のある女性には、
特に見過ごすことの出来ない事件です。
3.台湾食品の安全性を壊滅させた大事件発覚の背景
なぜ、わずか4か月間で食の安全性に関わる大事件がいくつも発覚したのか。背景として昨年後半の政変を無視できません。
2014年11月末に行われた台湾の統一地方選挙は建国以来の伝統を持つ
国民党が惨敗。
台北市長、桃園市長、台中市長、台南市長、高雄市長などめぼしい
大都市で国民の支持は独立路線の民進党。
統一地方選は2016年総統選の前哨戦と位置付けられていましたから
国民党の馬政権は惨敗により致命傷ともいえる深手を負いました。
台湾建国の歴史から言えば国民党が親共産党中国(中華人民共和国)で
あるはずがないでしょうが、中国出身(外省人)の馬英九総統になってからは
経済的発展のための現実路線と言える親中国色が強くなっていました。
政権は中国と交易する多くの政商実業家に支えられて順風漫歩と
思われてきましたが、献金、賄賂が横行し、腐敗が進んでいたようです。
(現在投獄されている陳水扁前民進党総裁も汚職で逮捕されていますから、
廃油事件暴露は途上国特有の利権争い、権力争いの面も否定できませんが、
経済的格差が表面化している現状で外省人系の多い保守国民党の専横と汚職が
本省人には耐えられないのでしょう)
4.偽装油摘発の始まりは大統長基食品廠
食用油疑獄ともいえる再生廃油問題に発展した最初の摘発は1年前の2013年10月の大統長基食品廠股?有限公司(彰化省彰化縣:しょうか)による偽装表示オリーブ油。
彰化縣出身の魏ファミリー(後述)と縁が深いこの会社は純粋なエキストラヴァージンと
偽り、違法な銅クロロフィル(Copper Chlorophyll)で着色された粗悪オイルを販売。
最低グレードのオリーブオイルでさえ半分も入っていなかったといわれます。
この会社はグレープシードオイル、ピーナッツオイル、ホットペッパーオイルなど
各種の食用油を販売していましたが、噂ではほとんどが香料などで風味を付けた偽装品。
原料はおそらく地溝油(黒心油)。
5.大統長基食品廠からの芋づる摘発が味全食品工業
大統長基食品の食用油類の偽装と低品質のあまりのひどさに驚いた県の衛生局や検察は管内の食用油製造会社を調査したところ
偽装された廃油や食用でない油を使用していた大企業がいくつも発見されました。
中でも偽装最大手が大統長基食品廠と縁のある味全食品工業股?有限公司。
味全食品工業は台湾食品企業第2位の超優良企業で、上場会社。
(1942年創業:食品産業トップは統一企業)。
味全は個人が創業した企業ですが現在の味全は頂新国際集団(後述)の子会社。
頂新が40%の株式を保有します。
味全は中堅企業ながら日本の油脂製造大手「月島食品工業も主要株主。
6.味全食品工業が製造販売するブランド
味全の生牛乳:「林鳳営」.台湾のトップブランド。味全の生鮮タマゴ:「木崗専業牧場」.ランクは不明ですが超有名。
味全の缶コーヒー:「貝納頌」.日本の上島珈琲(UCCコーヒー)が
味全と提携して焙煎技術供与(1985年).缶コーヒーと果汁飲料はトップクラス。
味全のインスタントラーメン;「康師傅」.
頂新国際集団が中国本土のトップブランドに育てた
有名ラーメン.
味全が台湾のライセンシーとして生産。
中国に進出してラーメンで成功した頂新グループはラーメンの名前を社名にした
康師傅公司を作り香港市場で上場。
「サッポロ一番」のサンヨー食品がオーナーの一角を大きく占め、
重要な役割を果たしています。
味全の食用油(日本流にはサラダオイル):「味全欧風黄金精華調合油」
「健康キッチンオリーブオイル」
ネーミングで意味不明にして中身はパームオイルや低品質オイルを
色素、香料、容器の色でカムフラージュしたものといわれます。
味全のコンビニエンスストアー:「全家便利商店」.ファミリーマートの台湾名.
中国本土の「全家便利商店」(上海)も同名で頂新グループが経営。
味全製造品が多いことで知られます。
味全のファーストフード:「徳克士(DICOS:ディコス)」
味全が中国大陸でスタートした独立系ファストフード店.
台湾にオープンしたのは最近。
鶏肉ハンバーガー、チキンフライが売り物でしたが、グループによる
汚染鶏や毒性油の疑惑が噴出するにつれ不明朗な内情が明らかになりつつ
あり、台湾では敬遠されているといわれます。
7.味全食品工業摘発であぶりだされた本丸は頂新国際集団
味全食品グループの不正摘発であぶりだされた頂新国際集団(Ting Hsin International Group)は
彰化縣永靖?(えいせいきょう)を本拠地とする台湾企業。
台湾人の魏和德が1958に創業後、中国大陸に進出。
当初は鼎新製油工廠、頂新製油公司のように製油を主たる業務として
いましたが、4人の息子魏應州・魏應交・魏應充・魏應行が業務に参加するように
なった1990年ごろから加工食品分野に発展し中国大陸に進出。
傘下の康師傅公司によるインスタントラーメンは日本のサンヨー食品が
技術、資本で全面的に支援。中国市場最大の販売量となりました。
即席めんの大成功により、1996年ごろから頂新社長の二男魏應交が
中心となり母国台湾でも広範な事業を展開。
1998年には著名な加工食品製造会社であった味全を買収しています。
現在はケイマン島に設立した税逃れホールディンカンパニー
の康師傅控股有限公司を通じていくつもの巨大食品加工会社を経営。
政商とも呼ばれるようになった魏ファミリーの頂新国際集団が
馬政権の有力サポーター。
味全社長(董事長)の魏応充(Wei Ying-chung)は頂新社長魏応交の弟。
魏応交:Wei Ying-chiao(jiao)は長者番付台湾第2の資産家といわれます。
(?:中国進出が成功して台湾1の資産家となったのは食品最大手企業
旺旺グループ会長の蔡衍明氏)。
頂新は2009年7月には台北のランドマーク的なビルである「台北101」を買収、
2014年8月にはケーブル・プロバイダーの「China Network Systems」を買収。
飛ぶ鳥を落とすほどの勢いで、馬政権に近い存在でしたから
これまでの食品スキャンダルはトカゲのしっぽ切りで解決していました。
今回の廃油問題も、味全食品を犠牲にして幕引きするつもりだったようです。
彰化県は頂新発祥の地であることと、国民党、民進党の勢力が拮抗しているために
不正摘発が遅々として進まなかったともいわれます。
摘発が遅れたための最大の問題点は頂新国際集団傘下企業がこれまでに
販売した不良油の量の多さ。
国内からかき集めたのでは足らずにベトナム、香港から輸入までしていたようです。
(続く)
下記続編を2015年1月16日以降に掲載します。
最終更新日 2021年8月6日