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第四十四話:建築思想家ウィリアム・ヴォーリズと湘南人の接点

2014年11月21日

2014年はウィリアム・メレル・ヴォーリズ没後50年ということからか
西日本中心に展示会やセミナー、建築訪問会が開催されています。
2010年のヴォーリズ生誕130周年に日経の文化欄をはじめ、
いくつかのマスコミに登場して以来ですが、ヴォ―リス思想が評価される
時代になったようです。
今の観光業界が踏襲すべきは日本古来のオリジナリティーを見出したヴォーリスの思想。
簡素な中にキラリと光る「静」の路線こそ日本の観光業が目指すべき
アイデンティティーではないか。
日本のダイナミックな「動」が魅力だったのは過去。
すでに新興諸国には大きく差をつけられている。

 

1.日本に帰化し、キリスト教思想を伝えたW.M.ヴォ―リス.

大正時代から昭和にかけて宗教家、事業家、建築家として活躍した
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(William Merrell Vories)(1880-1964)。
20代で来日。日本に帰化し、一柳米来留(メレル)を名乗りました。
ヴォーリズは様々な欧米文化を日本に紹介した米国人として知る人ぞ知る才人。
1,500件を超えるといわれる建築、「メンターム(メンソレータム)」や
「虫バイバイ」の近江兄弟社、キリスト教がベースとなっている
近江兄弟社学園など、現存している事業も様々。。
ヴォ―リスのキリスト教がベースとなっている思想は大戦前の日本人の多くを
魅了しましたが、戦後長く続いた日本人の貧しい生活が、その心豊かな思想を
打ち砕いてしまいました。
明日食べるものにも困窮した都市部の生活が金権主義、排他主義、利己主義を
育んでしまい、多くの日本人から、心の豊かさを奪ったからです。
第二次世界大戦後約70年。
やっと心の豊かさを取り戻した人々が、彼の思想に共感できるようになったことは
喜ばしいかぎりです。
彼の住宅建築思想は「自然との共生」「心が満たされる簡素な生活」。
その最大要素は喧騒とは対極にある「静寂」。
それは旅館や料亭で見られる俄か(にわか)作りの坪庭や回遊式日本庭園のことではない。
真の「静寂」に華美な仕掛けは要らない。
彼の建築思想の礎(いしずえ)は「静寂」に加え「簡素」「粋」な茶室の延長線上にあります。

 

2.湘南人が建てたヴォーリス設計の別荘(軽井沢)

 

軽井沢を愛し、数十件の別荘を設計したと言われる.
自然を採り入れ華美を廃した簡素な設計.

ご紹介するのはヴォ―リスの思想に共感した湘南人の軽井沢別荘。
簡素な造りにヴォ―リスの思想が息づいています。
現在の別荘所有者は湘南生まれの湘南育ち。
昭和一桁時代から湘南の海浜地区に居住している湘南人家族の3代目。
夫人はヴォ―リスの創立した近江兄弟学園と同様な湘南のキリスト教系(カトリック)
学園を卒業後、東京のカトリック系大学を卒業。
伝統的な湘南文化を発信する人々は少なくなりましたが、
心の豊かさに最上の価値を認め、それを追求する遺伝子は健在。
荒んだ金銭至上主義を否定し、心の豊かさを求める湘南人らしい
価値観を全国に発信してもらいたいものです。

別荘の庭は華美に走らず、あるがまま。自然を最大限に生かしている。
日本庭園のように造形や樹木の剪定はほとんどしない。

(写真上)
ヴォーリスの思想が垣間見える居間(リビング)に隣接したテラス.
軽井沢は一般的にウッドデッキが多いが、テラスは和風の石壁で造られ、
自然に溶け込んでいる.

(写真上)全体のフォルム(形)と板壁の木造は和風だが、
外壁にはチラリと洋風が配されている.
和建築に見られる二重軒、和洋折衷な窓のデザインに
彼の感性を覗くことができる.

 

3.ヴォ―リスと華族の接点

華族、政財界幹部の別荘が多かった大戦前の湘南海岸地方には
ヴォ―リスの思想に共感を覚える人が多く、東京や軽井沢には彼らが依頼した
建築が少なくありません。
ヴォ―リスの思想は良い意味での華族思想。
夫人満喜子さんは華族の一柳末徳家。
初代湘南人が共感するのは生活環境が近いこともあったのでしょう。
ウィリアム・ヴォーリズの思想、哲学は在外湘南人ともいえるほど
伝統的な湘南人と感性を共有しています。
ある面では湘南人を超えた良さをもっているかもしれません。
*一柳末徳家はNHKの連続ドラマ「朝が来た:2016年1月スタート」で
主人公波瑠(はる:役は広岡浅子)の長女千代(役は広岡かめ)の
嫁ぎ先として紹介されました。

 

4.ヴォ―リス設計の基本思想は「静寂」

ヴォーリズの貢献はお抱え外国人(明治維新以後、文明開化のために
先進国から多数招聘した)とは根本的に異なります。
維新後の数十年は短期間で先進国の文明、文化を導入する必要上、
日本の文化と欧米文化の融和、融合などという余裕が無い時代。
ヴォーリズの役割はその時代の後継者として、先進国の文明、
文化と日本古来の伝統文化との融合。
彼の住宅建築思想は「自然との共生」「心が満たされる簡素な生活」。
その最大要素は喧騒とは対極にある「静寂」。
それは旅館や料亭で見られる俄か(にわか)作りの坪庭や
回遊式日本庭園のことではありません。
真の「静寂」に華美な仕掛けは要りません。
彼の建築思想の礎(いしずえ)は「静寂」に加え「簡素」「粋」な
茶室の延長線上にあるでしょう。
鎖国による文明の数百年の後れを取り戻すべく西欧文化、文明吸収に狂奔する
日本国が已むを得ずとはいえ、伝統文化を否定し舶来崇拝に
急傾する愚を常に指摘していたようです。

 

5.ヴォ―リス設計別荘のディテール

 

(写真上)エントランス(玄関)は洋風だが、和風板壁を配し、
サイディング(羽目板)の幅が和に配慮されている.
支柱は樹木そのまま.

(写真上右).リビングとダイニングの境界は ヴォーリズ設計の
小さな可動(置き)間仕切り.

(写真上右)簡素だが便宜性の高い欧米風のベンチ.
機能性向上のために腰のずれを防ぐ竹材を埋め込んである.
木材板柄の選定と竹を配したデザインは和の伝統.

(写真上段左)階段の処理は純和風.(写真上右)ドアと腰壁は和洋折衷.

木材に柾目の選択は無い.
欧米人の装飾木材は板目、バーズアイ、虎斑などの紋様が多い.
独特なのは収納の処理.和ダンスのイメージだが引き戸の上部が和より大きい.

和洋折衷の天井と壁面処理.
ブラケットのデザインは和風だが取り付けは洋風.

漆喰の天井は欧米風.窓枠は和洋折衷.

(写真上)台所(キッチン)から食堂(ダイニング)への運び窓.
発案者は不明だが使用人を前提としない造りは外国人の発想.

しらす・さぶろう
初版:2010年8月:観光立国編第四十四話:「観光業界はヴォーリズに学べ」
「自然を採り入れ華美を廃した簡素な観光施設が活きる道
改訂版:2014年11月

 

最終更新日 2021年8月7日

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