長寿社会の勝ち組となるには(その15): レスベは認知症の悪玉炎症分子の脳内侵入を防ぐ
2016年11月11日

長寿のポリフェノールとしてテロメアの切断酵素を制御するサーチュイン酵素を
活性化することで有名になった赤ブドウのレスベラトロール。
すでに全米各地の研究所ではブドウ・レスベラトロールのサーチュイン活性化が
認知症など様々な老化現象の抑制に働くなどなど、新たな発見が次々に報告されています。
致命的になるまで自覚症状が無いことが多い体内の慢性生理的炎症(bioinflammation).
レスベの細胞内小器官における特殊な働きが密か(ひそか)に炎症を制御していることが
明らかになってきました.
1. レスベラトロールが免疫細胞から分泌された有害免疫分子の脳内侵入を防ぐ
「Resveratrol appears to restore blood-brain barrier integrity in Alzheimer’s disease」アルツハイマー病は脳の炎症で起きますがアミロイドβのAbeta40 and Abeta42など
異常なタンパク質の蓄積が神経細胞(ニューロン)を破壊する炎症の原因と考えられています。
脳は重要機能を持つ生体組織。
ガードの堅い脳の血液脳関門(けつえきのうかんもん:blood-brain barrier :BBB)に
よって簡単には脳細胞に異物質の侵入が出来ないようになっています。
それでも出入りを手伝うトランスポーター(運び屋)によって
悪玉、善玉の物質が出入りすることを立証した研究者がいます。

歴史的にはアルツハイマー病の原因となる破壊因子は脳免疫細胞として脳の中に存在すると
考えられていましたが、ジョージタウン大学医学部(ワシントンDC)の
ターナー博士(Turner )とモッサ博士(Moussa)は慢性生理的炎症(bioinflammation)が
最高レベルになると血中炎症を起こすいくつかの悪玉分子が、血液脳関門を乗り越えて
脳内に入るはずと確信。
その調査過程でレスベラトロールが脳壁で異物侵入を食い止める役割を
担っていることを発見しました。
2. レスベラトロールが神経細胞の炎症を減らし認知機能低下を抑制
神経細胞の炎症(neuronal inflammation)を減らせば認知機能低下を遅らせることが出来る。この新たなる発見は2016年7月27日のトロントでのアルツハイマー協会国際会議で
発表されましたが、これは2015年に発表された調査報告の後編。
既に昨年2015年9月にターナー博士とモッサ博士は
国立老化研究所(the National Institute on Aging)の支援で
高濃度の合成レスベを119人の初期、中期のアルツ患者に投与する全米規模の
大規模なフェーズ2治験を実施。
結果は「Resveratrol Impacts Alzheimer’s Disease Biomarker」の表題で
脳神経学会誌に掲載されました。
掲載内容は
「レスベラトロールは免疫細胞から分泌された有害免疫分子が脳内に滲みこむのを
防ぐ機能を持っている」
「Resveratrol appears to restore blood-brain barrier integrity in Alzheimer’s disease」
でしたが、分子レベルの作用機序発見にはいたりませんでした。
3. アルツハイマー患者の脳脊髄液中の蛋白分解酵素MMP-9量を調査
2016年7月に発表された実験はアルツハイマー発症が確認されている患者の脳脊髄液(cerebrospinal fluid :CSF)の特定分子を調査研究するために
19人はプラセボ(偽薬)、19人には赤ワイン高濃度レスベ***を1年間投与
***濃度が高いのは医薬品用の合成レスベラトロールだからです.
治験時は安全性が確保できてませんから一般の方の使用は出来ませんが
この研究によってレスベラトロール機能の概要が理解できます.
赤ブドウ・レスベラトロールは天然ならばごく少量で本来の目的が達せられる
有力な研究がいくつか報告されています.
その報告は「レスベラトロールの成分によって心臓、筋肉、脳の、
どの遺伝子が老化過程スイッチのオンオフに影響を与えているか観察する
実験結果。少量の天然ブドウ・レスベラトロール投与が、カロリー制限と同様に、
寿命に関する遺伝子経路(the same master genetic pathways related to aging)に働き、
肥満と心臓病を防げる.これにより生活の質を高め、長寿が達成できる」という
シンプルなものですが、遺伝子レベルで解明されていることがポイントです。
以前の動物を使用したこの種の研究では長期のカロリー制限(caloric )が
アルツハイマーを含む加齢関連の疾病を防ぐことが解っていましたが
レスベラトロールが同様な働きをすることがターナー博士らの研究でも立証されました。
ターナー博士らの新たな研究ではレスベの投与でサーチュイン1(酵素)が活性化すると
脳脊髄液中のタンパク質分解酵素
メタロプロテナーゼ9(metalloproteinase-9:MMP-9)が50%減少。
MMP-9はハイレベルになると脳内にタンパク質や分子を侵入させてしまう悪玉物質
ターナー博士にとって、これはエキサイティングな発見でした。
なぜならばレスベラトロールがアルツハイマー病に医療的にどのような効果を示すか
納得でき、特にこの病で重要な役割をはたす脳内の慢性生理的炎症(bioinflammation)に
レスベラトロールが間接的な抗炎症効果を持つことが示されたからです。
「Resveratrol appears to restore blood-brain barrier integrity in Alzheimer’s disease」
共同研究者のチャーベル・モッサ博士博士(Charbel Moussa)は
レスベラトロールが脳内に存在している炎症細胞に持続的な免疫効果を持つことと、
一種の免疫作用を持ち、脳神経に有害なタンパク質を減少させ、かつ排除する役割を
果たすメカニズムの解明ができたと話しています。
「炎症を悪化させ脳細胞を殺す悪玉免疫分子を
ブドウ・レスベラトロールが食い止めている」のは非常に面白い発見であり
「ブドウ・レスベラトロールを使えばがアルツハイマーの免疫反応を脳の内外で計測できる」
ことを示唆しています。
ちょっと困惑する発見は治療に伴って脳が縮小すること。
これは脳細胞の過剰な炎症で起きる神経の多発性硬化症(multiple sclerosis)
にもみられるとのことです。
このことの是非は治験のフェーズ3段階で、もう少し研究する必要がありますが
レスベラトロールがアルツハイマー治療に必須な物質であるとの
確信は揺らがないとのこと。
4. レスベラトロールによってリン酸化タウ蛋白質とアミロイドβが減少する
カリフォルニアのバック研究所(The Buck Institute)は創立以来、老化に関与する様々な生理的炎症の研究で著名ですが、炎症を制御する物質として
ブドウ・レスベラトロールが重要なターゲットとなっています。
ブドウ・レスベラトロールは染色体のテロメアを切断していく酵素を阻害する
サーチュイン?(SirT?)酵素の研究が著名ですが、この研究所では
そのサーチュイン?(SirT?)の持つ抗生理的炎症機能に注目し
ブドウ・レスベラトロールによってサーチュイン?(SirT?)を活性化させれば
認知症の原因となるリン酸化タウ蛋白質とアミロイドβの機能が減少することを発見しています。
バック研究所の研究者は人体で確認されている7つのサーチュイン(Sirtuins)酵素の内
抗老化タンパク質のサーチュイン?(SirT?)が認知症を引き起こすApoE4遺伝子によって
極端に減少することを発見。
またApoE4 はアルツハイマー病に特徴的なリン酸化タウ蛋白質(phospho-tau)、
アミロイドβを増加させていることも発見しています。
「認知症に関わるアポE遺伝子の制御は可能か
米国立老化研究所のアポE4調査「GeneMatch」
http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=513
バック研究所のリーダー的科学者のラオ・ラモハン博士(Rammohan Rao)と
デール・ブレデセン博士(Dale Bredesen)は「ApoE4 に関わる
アルツハイマー病の生化学的メカニズムはいまだにブラックボックス内ですが
各国の多くの研究所による数々の解明が進んでおり、箱が開くのは
遠くないだろう」と予測しています。
5. バック老化研究所(Buck Institute on Aging)
豊かさでは全米有数といわれる米カリフォルニア州マリーン郡(Marin County).その北端の町、ノバト(Novato)にバック老化研究所があります。
比較的新しく、本格活動を始めたのは2000年。
名前の由来となったのは早逝した病理医学者の夫の遺産を寄付した
バックさん(Buck・Hamilton:1896–1975)
夫の実家は石油関連業の資産家でした。
小さいながらも700億円を超える潤沢な資産を持つ独立系の私立財団に
支えられ、ユニークな切り口のアンチ・エイジング研究を続けています。
6. アポリポ蛋白質と認知症リスクファクターのApoE4遺伝子
アポリポ蛋白質は脂質を血中で運搬するリポタンパク質(lipoprotein)の蛋白部分に存在します
コレステロールやβアミロイド(beta-amyloid)などコレステロール様分子が
細胞を出入りする運搬にも関わり、シンプルな表現ならば、出なら善玉、入りなら悪玉と
言えます。
アポE遺伝子は対立遺伝子(アレル: allele)の組み合わせごとに作用度が異なり、
βアミロイドが脳細胞から出る場合はApoE2が最も強力な働きをするといわれ、研究者が
毒性機能の喪失( “loss-of-function” toxicity)と呼んでいます。
一方ApoE4 遺伝子は毒性機能の獲得(toxic “gain-of-function”)と呼ばれています。
言い換えればApoE4 が脳内にβアミロイドを取り込み、塊(プラーク:plaque)を形成します。
ある研究ではApoE4をApoE2に近い構造に変える工夫(構造修正:structure correctors)を
試みています。
また、βアミロイドとApoE4の相互関係を分子レベルで解明し、増加するβアミロイドを
脳から一掃。沈着(accumulation)や塊(プラーク)形成を排除する研究もあります。
すでに治験に入っている動きには危険なApoE4 遺伝子を持つ人に、組み換えウィルスを運び屋にして
ApoE2遺伝子を脳に運び、体が持つ自然の治癒力を高める試みがあります。
しらす・さぶろう
最終更新日 2021年10月31日