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タイの魚市場その3:アジアのエビ食文化(1): アジアの伊勢海老チャンピオンがウチワエビモドキのわけ

2014年2月3日

(写真上)ウチワエビモドキ(Thenus orientalis)(セミエビ科:Scyllaridae)(パタヤ:タイランド)

ロブスターはイセエビ系にも使用される通称。オマール系だけの呼称ではありません。
イセエビ系、ミナミイセエビ系、オマール系すべてに通ずる英米語の通称、俗称。
当たり前のことですが、欧米の市場やレストランでは分類学的な呼び名は使用しません。

 

1.ウチワエビモドキ(Thenus orientalis)

海老類のチャンピオンがイセエビ科(Palinuridae)であることは世界のだれもに異論がないでしょう。
事実、世界のシーフード(海鮮料理)では常にトップクラスの人気。
問題はその価格.日本では小型ならばともかく、
大型の「活き伊勢海老」はちょっとがんばるくらいでは
手が届きません。これは欧米やアジア、オセアニアでも同じ。
平均所得との比較で推し量れば日本以上の価格も珍しくありません.

ところが世界は広いを実感するエビがあります。イセエビ科ではありませんが
オーストラリアに多いウチワエビモドキ(Thenus orientalis)を食したことがあるでしょうか。
日本に輸入もされています。
ただし「活け」が入手できるのは天然漁獲があるという九州以南くらい。
タイの沿岸部ではこの活きエビが簡単に手に入ります。
見栄えは伊勢海老にはかないませんが、活きたウチワエビモドキの料理は味覚ならば
伊勢海老に(勝りませんが)劣りません。
ウチワエビ類は伊勢海老同様に生息海域により色、形状が微妙に異なります。
どれも慶事に使用できるほど立派ではありませんが、美味しいとはいえグロテスクな
セミ海老類より美しいといえるでしょう。
タイでは大型の「活き」がキロ約1,200円から1,400円前後。
キロ100バーツを超える水産物は庶民の食べ物とはなりませんが、
350から500バーツくらいならば縁遠いものでもありません。
狂ったような価格の伊勢海老を駆逐できる新たなチャンピオンといえます。

(写真上)ウチワエビモドキ(Thenus orientalis)(セミエビ科:Scyllaridae).
この写真は合計約1キロの蒸しウチワエビモドキ(4-5匹).縦割りにしている.
小ぶりだが、イセエビより可食部分が多く、「活け」を使用しても1キロで
1,300円以下.(パタヤ:ラン島:Koh Larn)

このエビは欧米人にモートン・ベイ・バグ(Moreton Bay bug)、
ベイ・ロブスター(Bay lobster) といわれることがあります.
モートン・ベイ・バグの意はクイーンズ州(オーストラリア)モートン湾の虫.
形状は確かに海老よりゾウリムシでしょう。
上の写真右は活きウチワエビモドキ(パタヤ:ラン島:Koh Larn)
*モートン・ベイ(Moreton Bay)は東オーストラリアのブリスベン近郊。
広大な湾はモートン島が堤防の役割を果たし、港、牡蠣の養殖、漁業の
基地となっている。

 

2.アジアでは存在感抜群な日本の伊勢海老(Panulirus japonicus )

 

(写真上)伊勢海老(Panulirus japonicus )
日本にはアワビ、ふかひれなどの超高級食材がありますが、
生産量がそこそこ多く、慶事やご馳走として最も広く愛されているのは
日本各地で産する伊勢海老(Panulirus japonicus )。
和歌山県、三重県、房総半島、伊豆半島などが主要産地。
気取ったグルメは古語の「鎌倉海老」「具足海老」と呼んだりもします。
こだわりグルメにとって刺身が美味しいのも、日本の「伊勢海老」だけといわれます。
ワインや牡蠣と同様に同じ品種といえども、生息する地域や餌、潮流、塩分濃度、海水温などが
異なれば形状、体色まで変化しますし、もちろん風味が変わります。
イセエビ科には沿岸に緑が多い温帯地域の日本が最も適しているのでしょう。

本物の「伊勢海老」は弾力があり独特の香りと甘味の強い刺身(上の写真:相模湾産)も美味しいですが、
より香りを引き出すシンプルな焼き海老(グリル)や味噌汁もお奨め。
蒸したり(スチーム)、煮たり(ボイル)する人も多いですが「活け」が手に入った時にはおすすめできません。
欧米のグルメはベシャメル・ソース(テルミドール:thermidor)、アメリケーヌ・ソース(Sauce Américaine)、
オ(ホ)ランデース・ソース(Sauce Hollandaise)で焼くことも多いですが、日本ではどちらかというと
自然死(苦悶死)海老や偽装伊勢海老の料理法。
欧米では蒸し海老、ボイル海老はバターソース、日本人は酢醤油でも食べますが
アジア風に生トウガラシとかんきつ類の酸味ソースもお奨め。

写真上は祝い事のオードーブルに映えるイセエビ(豪州産、アフリカ産?)と
アワビ.(結婚式のレセプション:神奈川県鎌倉市)

伊勢海老は予算が許せばだれもが使用したい食材.
「伊勢海老」は通常この写真のような色になることは稀.お節(おせち)などで大型の
濃い橙色の海老はオーストラリアミナミイセエビ(Panulirus cygnus)か
アフリカミナミイセエビが多い.

伊勢海老(Panulirus japonicus )のブイヤベース.
これは九州天草産の本物(といわなければならない悲しい時代).

ブイヤベースは可食部分の少ないイセエビの合理的な調理法(日本人は味噌汁でしょう)
古くからフランス料理ではイセエビやカニの殻、内臓で作ったソース(ビスク:bisuque)を
愛してきました.日本の「伊勢海老」(わざわざ「本伊勢海老」と呼ぶ関係者も多い)は
カロテン量が異なるために加熱で体色が均一な橙色になることはありません。

料理のプレゼンテーションで存在感抜群、見栄えがするのが伊勢海老。
お祝い事には最適の素材でしょう。
刺身でも殻はシックな濃い赤色(あずき色)を持ち、華やかさを演出できます。
ただし、日本では比較的大きい伊勢海老の消費市場価格(お魚屋さんレベル)は
キロ6,000円から1万数千円を超えます。浜渡しでも中型、
大型は3,000円から4,000円(首都圏2013年夏)
ホテル、レストランや慶事でも本物の「伊勢海老」使用の場合はキロ単価の安い
超小型が大部分。
中型大型を使用した料理、おせち等はほとんどが輸入の近似種。
「伊勢海老」と詐称、偽装するのが高級ホテル、レストラン、デパートで日常的と
なっていることが関係者には知られています。

 

3.カノコイセエビ(Panulirus longipes)

 

(写真上)カノコイセエビ(Panulirus  longipes )(那覇:沖縄の小売り市場)
奥に見えるのはゴシキエビ

カノコイセエビは値段といい、味覚といい「伊勢海老」と遜色ありません。
刺身に差があるといわれますが比較目的に食した体験がありませんので不明。
限りなく「伊勢海老」に近い品種ですが、温暖な海域で餌が異なりますから
たぶん刺身の味は異なるでしょう。
このエビを「伊勢海老」と称しても詐称にはならないと思いますが、
「活け」ならば価格はこちらのほうが高いでしょう。

 

4.ニシキエビ(Panulirus  ornatus )とゴシキエビ(Panulirus  versicolor)

 

(写真上)ゴシキエビ(Panulirus  versicolor)(パタヤのレストラン:タイ)
日本では九州、沖縄に生息するニシキエビ(Panulirus ornatus )とゴシキエビ(Panulirus versicolor)を
分けますが、欧米では食材ならSpiny Lobster、Tropical Rock Lobster と呼ばれ同じ扱い.
欧米人は交雑種、変種、亜種が多いイセエビ科のエビはSpiny Lobster(棘ロブスター)と総称します。
食材としてならば値段も味も「伊勢海老」と同程度ですから偽装に使用されることはないでしょう。
東南アジアで活き伊勢海老といえばほとんどはこの種.

ゴシキエビは「活け」ならば刺身も含めて伊勢海老と変わらず美味ですが、
タイではバカバカしいほど高価(パタヤのレストラン)
このエビを安く食べることができるのはヴェトナム、インドネシア、フィリピンぐらい?
イセエビ類は自然死(苦悶死)すると同じ素材かと疑うほど劣化が激しいですから
価格も大幅に下がります。
写真下の那覇市場の表示価格は比較的安いように見えますが、
自然死の商品は「活け」の5分の1でも高すぎるくらいで価値がありません。

(写真上)左端2匹がニシキエビ(Panulirus  ornatus).足のまだら紋様に特徴がありますが五色エビとの交雑もある?
その右2匹はカノコイセエビ.那覇(沖縄)の小売り市場.右の写真は水槽の活きニシキエビ(ニャチャン:ベトナム)

(写真上)沖縄のニシキエビ(Panulirus  ornatus).
東南アジアのニシキエビとは甲の文様が違います.

ビーチサイドの屋台で売られるゴシキエビ(左)とニシキエビ(右)のボイル.
ボイルするとアシタキサンチン量の差が明白に現れる.(下左の写真は横から)
左側上部はヒラツメガニ.右側上はトゲシャコ.(ニャチャン:ヴェトナム)

(参考写真上)ヴェトナムのニャチャン・ビーチでは海老類の売り子が出張販売.
ベトナムは養殖に成功した(?)からか、活きでなければゴシキエビ、ニシキエビが安い.
一匹4~500円くらい.

ゴシキエビ(Panulirus  versicolor)の変種といわれている(?)ブルーのイセエビ(観賞用:ヴェトナム)
アメリカン・ロブスター(Homarus americanus)系は真青の異種、変種は珍しくないがPanulirus系は稀.

 

5.アカイセエビ(Panulirus brunneiflagellum):(観賞用東京)

 

アカイセエビ(Panulirus brunneiflagellum)
希少種といわれますが、イセエビ科は生息域により交雑が激しいようで
体色、配色、形状が異なることが多いよう。
遺伝子学的解析で新発見という報告はありますが、伊勢海老、カノコイセエビの亜種か
交雑のようなこの種が本当に希少新種?
小笠原諸島に生息するといわれます。

 

6.ミナミイセエビ (Jasus edwardsii)伊勢海老詐称のチャンピオン

(写真上)ミナミイセエビ (Jasus edwardsii )(オークランド:ニュージーランド)
ミナミイセエビ(Jasus)は南半球に産するイセエビ類の総称。
写真のミナミイセエビ(Jasus edwardsii )はニュージーランド南島の
カイコウラ(Kaikoura)産。
カイコウラは名称由来が先住民語の甲殻(crayfish)といわれているくらいイセエビなどの
シーフードが著名。
日本の伊勢海老に近い容姿.
オセアニアのイセエビは英称Rock lobsterと総称されますがこのエビを
Red lobsterとよぶ人もいます。
現地ではNZ北島からタスマニア、オーストラリア東海岸にかけて生息する体色が
モスグリーンのミナミイセエビ(Jasus verreauxi)をEastern rock lobsterと呼んでいますが
それと区別しての名称でしょう。
オーストラリア、アフリカに近似種が生息します。国、生息海域により体色、配色は様々。
オーストラリア西海岸にはNZのミナミイセエビ(Jasus edwardsii )に類似した
ミナミイセエビ(Jasus novaehollandiae)も多数生息していますが
イセエビ系(Palinuridae)のオーストラリア・イセエビ(Panulirus cygnus)
重要水産物となっています。
ミナミイセエビ(Jasus)は専門家が見れば背肌と触角でイセエビ系(Palinuridae)との
違いが分かりますが日本のホテル、レストランなどで供される「伊勢海老」の大半は
この系統(Jasus)の海老。
日本の商社が安く仕入れているようで日本では「伊勢海老」より3割以上は安い。
ただし現地で安くは食べることができません。
ニュージーランドでは冷凍物を除き小型は捕獲しないために、市場の水槽の「活け」は
600グラムから1キロ近い大型がほとんど.
大きいだけに価格も跳ね上がりニュージーランドの小売り市場では「活け」が
キロ8千円以上(99NZドル).市場の販売担当者ですらバカバカしく高いと発言.(オークランド.NZ)
ニュージーランドのスーパーではボイルでも信じられないほど高価.
300グラム前後の大きさで1匹2,000円から2,500円です.(クライストチャーチ.NZ)

(写真上)NZウェリントンのスーパーで売られるボイル海老.
「活け」と価格は同じ99NZドル/キロ.
右のハーフカットは1キロ.これで99NZドル.巨大(2キロ)なエビの大きさは
隣の生牡蠣と較べてみてください。
左は350gぐらいの大きさですから一匹35NZドル.

ミナミイセエビ系は「伊勢海老」に似ているために「伊勢海老」と偽装することが
超一流ホテル、百貨店(高級弁当、お節など)でも当たり前となっています。
「伊勢海老」とは異なる鮮やかなカロテン色に見覚えがある方も多いと思います。
このイセエビを「伊勢海老」として高額で売れば詐欺と非難されて当然。

(写真上)ミナミイセエビ系「のソテー(stir fry).
メニューには「伊勢海老」.
格安コースに組み込まれたメニュー
ゆえに詐称は気にならない。(某中華街)

名鉄グランドホテルがロブスターと称するのは間違いではありません。
ロブスターはイセエビ系、ミナミイセエビ系、オマール系すべてに通ずる英米語。
海外のシーフードに通じている方ならわかるはず。
一部の方に誤解されているようですが、ロブスターの名称は必ずしも
オマールエビ類(Homarus gammarus:H. americanus)だけに与えられた
ネーミングではありません。ラテン系国民がランゴスタと通称するようなものです。
詐称と指摘されたのはアフリカミナミイセエビを産地の明示なしで、
高価な「伊勢海老」と表示して偽装販売したからからでしょう。
メニューには「イセエビ(またはロブスター):ミナミアフリカ産」
「イセエビ(またはロブスター):オーストラリア産」と書くべき。
伊勢海老主要産地の旅館、ホテル、レストランが輸入のミナミイセエビ系を
あたかも地場産を装い「伊勢海老」と詐称すればそれが偽装でしょう。

ヨーロッパ・ロブスター(European lobsterHomarus gammarusフランス中西部産)
北東大西洋のノルウェーあたりから地中海のモロッコあたりまで生息します.
アメリカン・ロブスター(メーン・ロブスター:Homarus americanus)より小型.
写真のロブスターは約500g.価格はキロで16から17ユーロ(実感で約2,000円)
メーン(Maine)産もヨーロッパ産もフランス式にオマールエビ(学名由来)と呼ばれます.
大きさは手で持っている右の写真で想像して下さい.
限りなくザリガニに似ています.

写真上)アメリカザリガニ(Procambarus clarkii:ヒューストンのレストラン)

(写真上)中央が正真正銘の伊勢海老刺身.(静岡県西伊豆)
慶事に色を添えたつもりか伊勢海老刺身に金粉.
美味しさを損なうイメージだがご愛嬌.
お刺身は偽装が難しいが、味噌汁ならば?
写真下はペンションで供される本物の伊勢海老刺身.
形は小さいが料金が安いだけにパフォーマンスは良い.(静岡県西伊豆)

 

7.オーストラリア・イセエビ(Southern rock lobster :Panulirus cygnus

 

オーストラリア・イセエビ(Southern rock lobster :Panulirus cygnus)の
ブイヤベース

茹でた時のカロテン(アスタキサンチン)色とつるつるの腹部背肌が独特です.
「伊勢海老」とはかなり異なりますが、刺身はともかくブイヤベース、
味噌汁ならば十分美味しい.価格は「伊勢海老」より3~4割は安い.
数十年前はタスマニア・ロブスターとも称され輸入量が多かったようですが、
昨今は伊勢海老により近い体色、体形のミナミイセエビ系が主流.

 

8.セミエビ(蝉海老:Scyllarides squamosus)

 

(写真上)セミエビ(蝉海老:Scyllarides squamosus):Slipper lobster
(セミエビ科:Scyllaridae).
コブセミエビ(こぶ蝉海老:Scyllarides haani)との差異は外見?

ウチワエビモドキ同様にとても美味しいが漁獲量が少ない.
日本では活きセミエビが本物の「伊勢海老」より高い場合があります。
(可食部分が多く、歩留まりが良いからでしょう)。
亜熱帯以南の市場価格は特別高いものではありませんが、観光地では
「伊勢海老をはるかに超えた美味」と称し超高額な請求をされることが
あるようですから要注意.(沖縄の小売り市場)

 

9.トゲシャコ(Harpiosquilla harpax)

 

(写真上)トゲシャコ(Harpiosquilla harpax)(ジョホールバル:マレーシア)
トゲシャコ(棘蝦蛄)は小売り市場で販売されることは少ないが、
高級レストランが目玉の一つにしている大きなシャコ(蝦蛄).
稀少性からか、レストランではバカ高い.
「活き」を調理したものは1人前500グラム足らずで(1匹から2匹)で
700から1,000バーツ(2~3,000円)もします.キロではありません.
香りが消えてしまう多量の刻みにんにくを使用する調理法が多い。
味を考えればウチワエビモドキのほうがはるかにお買い得(パタヤのレストラン)
(食材研究家:しらす・さぶろう)

初版:2011年4月
改訂版:2014年2月

最終更新日 2021年8月7日

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