山中教授の皮膚細胞による卵子、精子合成と IPS細胞への日米政府の対応
2013年10月11日
1.誘導多能性幹細胞(アイピーエス)の未完部分:iPS. 山中伸弥教授
京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らは、先週2007年11月20日にセル誌(Cell)に多能性幹細胞合成の成功を発表しましたが、それに関する政府対応についてケン幸田さんより
怒りのレポートが到着しました。
山中教授らは2006年に体細胞による誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:以下iPS)
に成功していました。
この成功が公表されて以来、残されたハードルは幹細胞の最大のアイデンティティーである
卵子、精子の作製と、作製に使用する遺伝子の「運び屋」に安全性が高い手法を用いることでした。
2007年になりiPSは卵子、精子作製の成功で第一ハードルを越え、理論的な方向付けが出来ましたが
「運び屋」には危険なレトロウィルスを使用しています。
特異な性格を持つレトロウィルスはエイズウィルス、B型肝炎ウィルス、リンパ系悪性腫瘍ウィルスなど、
危険なウィルスで知られていますから、残されたハードルはかなり高いものです。
山中教授らも、これをクリアーしてから公表したかったのではと思われますが、
iPS作製の成功以来、過去一年間に日本国の応援は乏しく、追いついてきた他者の研究発表が
連発したことで発表時期を早めたのではと推測しています。
日本政府(福田康夫総理)、行政は、これまでの対応に非難が噴出したことで、
今週後半(2007年11月28日)になり、今後の援助策についてやや具体的な案を出しています。
(危険な運び屋のハードルは2011年現在、各国で、より安全な手法が開発されていますが、
臨床で実用に耐えるかどうかは未明です)
2.誘導多能性幹細胞に関するケン幸田氏のコメント(2007.11.26)
今般、京大教授が発表された「新型万能細胞」は、ノーベル賞候補どころか、世紀の医学的大発見だとされております。
但し気になるのは、アメリカの学会からも
同時期・同様な発表があり、しかもブッシュ大統領が即座に祝辞を寄せたのに対し、
日本政府・外交筋(高村正彦外務大臣)は全くの無言を貫いたと言う事実です。
この間政管広報は、シンガポール発アジア外交一辺倒に打ち過ぎました。
これは、「人ゲノム」発見でも繰り返された「国家的広報」ミスの二の舞で、
日本チームのゲノム解読に後続していたアメリカチームの方が国家的広報力により、
世界的評価を得て、ノーベル賞に輝いたという悲劇を想起させます。
その昔、北里博士が世界に先駆けて「ペスト菌」を発見し、「ジフテリアの血清療法」を編み出しながら、
同僚の(同じくコッホに師事していた)欧人にノーベル賞をさらわれた歴史的事象とも符合します。
我が国の国際的広報の稚拙さ、及び政官学間の連携プレーの劣悪さ、学閥間の卑劣な嫉妬心・
縄張り意識や狭量性は日露戦争後ずっと国益を損ねるケースを繰り返しているように思えます。
これはマスコミを含め、内弁慶的な性向に根差した「村社会的」とも言える民族的欠点かも知れません。
日本人に対する国際的誉め言葉である「エコノミックアニマル」を民間経済人の努力功績にとどめず、
グローバル時代にこそ「ポリティカルアニマル」や「アカデミックアニマル」
そして「ジャーナルアニマル」と呼ばれる日本人が続出して欲しいものと、
切望致します(ケン幸田)(原文のまま)
3.独走できなかった京都大学再生医科学研究所.:卵子、精子作製の成功
日米のiPS作製は、いずれも逆転写酵素を持つレトロウィルス(RNAリボ核酸ウィルスを使って幹細胞の基幹(stemness)となる遺伝子を皮膚細胞に導入しています。
皮膚細胞に基幹遺伝子を導入して遺伝子プログラムを変更(reprogramming)するわけですが、
日米の相違は皮膚細胞に導入する4種類の基幹遺伝子がおのおの異なるだけです。
実験効率をあげるためにオンコジーン(がん遺伝子)などの危険な遺伝子も使用していますが、
お互いにこのハードルはそう高くありません。
人の卵子を使用する幹細胞の製造は倫理問題、抗体による拒絶反応などの大きなハードルがあります。
皮膚細胞など体細胞(somatic cells)の遺伝子プログラムを変更(reprogramming)して
幹細胞を作る技術はそれをクリアーできますから、その技術は世界が期待しており、
欧米の各研究所が激しい開発競争をしていました。
4.基本的な相違の無い日米の研究成果: レトロウィルス(RNAリボ核酸ウィルス)
日米のiPS作製は、いずれも逆転写酵素を持つレトロウィルス(RNAリボ核酸ウィルス)を使って幹細胞の基幹(stemness)となる遺伝子を皮膚細胞に導入しています。
皮膚細胞に基幹遺伝子を導入して遺伝子プログラムを変更(reprogramming)するわけですが、
日米の相違は皮膚細胞に導入する4種類の基幹遺伝子がおのおの異なるだけです。
実験効率をあげるためにオンコジーン(がん遺伝子)などの危険な遺伝子も使用していますが、
お互いにこのハードルはそう高くありません。
人の卵子を使用する幹細胞の製造は倫理問題、抗体による拒絶反応などの
大きなハードルがあります。
皮膚細胞など体細胞(somatic cells)の遺伝子プログラムを変更(reprogramming)して
幹細胞を作る技術はそれをクリアーできますから、その技術は世界が期待しており、
欧米の各研究所が激しい開発競争をしていました。
5.反応が早かった米国厚生省(HHS):グラッドストーン心臓病研究所
米国ではキリスト教の教義に反するとしてブッシュ大統領がヒト胚幹細胞(human embryonic stem cells)を利用する幹細胞製造に反対していましたから、朗報です。
日本に先行して米国厚生省(HHS)官房長官のマイク・レビット(Mike Leavitt)が早速、
「今回の研究開発成功(the Success of Adult Stem-Cell Reprogramming)はブッシュ大統領の
倫理観に沿うものであり、その障害を取り除いたことは大きい」と祝福のコメントを発表しています。
日本ではマスコミの取材による報道が先行し、政府、行政が大喜びという感触はありません。
行政対応については70億円の援助など、具体的金額が報道されていますが、
正式には渡海大臣が27日の記者会見で「今後はしっかり応援したい」と話した程度(27日現在)。
山中教授は日本の医学界、厚生労働省、文部科学省などでメジャーとなっている大学の
出身者ではありません。
オープンな学風で知られる京都大学でチームを組んだからこそ実験に成功しましたが、
iPS作製に成功した2006年以降に行政の充分な後援はほとんどなかったようです。
またヒト胚幹細胞など幹細胞の研究は主流の研究者以外には行政の壁が厚かったという
情報もあります。
逆説的には「だからこそヒト胚細胞を使用しない万能細胞の研究」に成功したのかもしれません。
大部分の関係者が東京大学の「ヒト胚幹細胞や臍帯血の研究による多能性幹細胞の作製」による
再生医療への道に期待していたからかもしれません。
このあたりのことでケン幸田さんは学閥にふれたのでしょう。
山中教授はサンフランシスコのカリフォルニア大学(UCSF)に付帯する
グラッドストーン心臓病研究所(the Gladstone Institute of Cardiovascular Disease)で
上席研究員ともなっていますが、日本の研究環境だけではテーマの完成が難しいのでしょう。
iPS研究で残されたハードルは遺伝子組換え技術で先行している米国での解決が早いかもしれません。
先般、当コラムで取り上げた、エイズウィルスの権威である熊本大学の満屋教授も、
主たる実験成果は米国厚生省のがん研究所で上げています。
6.難しい日本での基礎技術開発
ウィルスや難病は人類共通の敵。グローバルな協力で敵に向かう必要がありますから、ナショナリズムは不要でしょうが、
日本人研究者を国家が応援するのは当然です。
2006年のiPS研究を国家が全面的にバックアップしていれば、ハードルのクリアーも早まり、
日本が世界に誇れる新技術になっていたかもしれません。
実験のスピードアップは資金と人海戦術が必要です。
日本人研究者が米国の研究蓄積と資金を利用している限り、日本独自の研究開発とすることは困難で、
研究途上の情報が漏れる原因ともなりますが、先方を利用していれば止むを得ません。
日本は第二次世界大戦の敗戦後60年、いまだに、ほとんどの産業分野で
欧米などの基礎技術に依存しています。
文明開化以来の習性は130年くらいでは変えられないのでしょう。
エレクトロニクス、医療、建設などに造詣の深いコラムニストのケン幸田氏は、
どの分野でも外国をリードできない、もどかしさを感じているようです。
日本の研究者への環境整備には時間がかかりそうです。
初版:2007年11月

最終更新日 2021年8月13日