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2008年ノーベル医学生理学賞で示されたノーベル財団の正義: 仏米「エイズ・ウィルス発見者論争の背景」

2015年10月9日

2015年のノーベル医学生理学賞は日本の大村博士とともにニガヨモギより
アルテミシン(アルテミシニン)を発見した中国の屠??(Tu yuyu)博士が受賞.
トゥーユーユー博士は毛沢東がマラリアに苦悩する北ベトナムを支援する
523プロジェクトのリーダーでした.
2011年に屠??博士がアメリカ・ノーベル賞のラスカー賞(臨床医学賞)を
受賞した時に起きた彼女の受賞に対する異論と抗議の数々。
そっとしておけなくなり、世界に再び示されたノーベル財団の正義。
そんなドラマを感じる2015年のノーベル医学生理学賞でした.
(*屠呦呦(Tu youyou)博士はいわゆる博士ではありませんが、関係者は
尊敬を込めて Drの尊称で呼んでいます.)

 

 

 

 

1. 2008年のノーベル医学生理学賞に話題沸騰

2008年10月6日、ノーベル医学生理学賞がフランスの
エイチアイヴィー(HIV:Human Immunodeficiency Virus)発見者らに
授与されました。
ノーベル賞が真のエイチアイヴィー・ウィルス発見者へ授与され、これまで続いていた
仏米の発見者特定論争が決着したことは、感染症を研究する学者や関係者には
感慨深いものでした。
20年以上の長い間、エイチアイヴィー・ウィルスの発見をめぐり、「もやもや」とした
不快感が世界中の関係者にあったからです。
エイチアイヴィー・ウィルスの発見者は1987年に高度な政治的配慮により、
仏米二国の研究者が共同発見者とされていました。
その後の長期間にわたり独自に情報を集めていたノーベル財団側が、
2008年にフランス・グループだけに賞を授与したことは財団の良識を示した
快挙として歓迎されています。
今回の選定はノーベル賞が権威ある賞であることを再認識させたと共に、
真実の解明に努力した米国関係者の良心を印象付けました。
山中博士のアイピーエス細胞(幹細胞様細胞)作成にも共通する部分がある展開だっただけに、
日本にとっては喜ばしい結末でした。

 

2. 2008年のノーベル医学生理学賞受賞者

エイズの原因となるエイチアイヴィー(HIV:Human Immunodeficiency Virus)の発見者は
パスツール研究所(フランス、パリ)のフランソワーズ・バレシヌジ博士(61才)
(Dr. Francoise Barré-Sinoussi)とリュック・モンタニエ博士(76才)(Dr.Luc Montagnier)。
現在はバレシヌジ博士がパスツール研究所の
レトロウィルス感染抑制組合役員(director of the Regulation of Retroviral Infections Union at the Institut Pasteur )、
モンタニエ博士は世界エイズ予防研究基金の共同創立者(the World Foundation for AIDS Research in Prevention)で、理事(2008年現在)。
エイチアイヴィー(HIV)発見者二人(50%)と賞金をシェアー(50%)したのは、
子宮頸がんの原因となるヒューマン・パピローマ・ウィルス(human papilloma viruses:HPV)を
発見したドイツがん研究センター(German Cancer Research Center, Heidelberg)の
ハラルド・ツア・ハウゼン博士(72才)(Harald zur Hausen)。

 

3. エイズ・原因ウィルス発見者騒動の背景

騒動の発端は1984年4月23日、米国厚生省(保健省)の発表でした。
米国厚生省は、傘下の国立衛生研究所のロバート・ギャロ(Dr. Robert Gallo)博士が
エイズ(Acquired Immune Deficiency Syndrome:AIDS)の原因ウィルスを発見、分離し、
ワクチン開発が可能になったと発表しました。
このウィルスはロバート・ギャロ博士のがん研究の延長線上であるウィルスとして
HTLV-III(human T-lymphotropic virus typeⅢ)と名付けられていました。
この発表に驚いたのは1983年1月エイズの原因ウィルス分離に成功していた
フランス国立パスツール研究所(Pasteur Institute)のリュック・モンタニエ博士ら。
すでに1983年5月20日の米誌「サイエンス」にこのウィルスに関する論文を発表していました。
このウィルスはLAV (Lymphodenopathy Associated Virus)と名付けられていました。
博士らフランス側は直ちに抗議声明を出し、ロバート・ギャロ博士のHTLV-IIIは米国側に
サンプル提供してから盗まれたものであり、フランス研究者が発見したLAVと
同じウィルスであると、権利保全の法的措置をとりました。
議論は紛糾し、最後は両国の最高指導者同士の話し合いに持ち込まれました。
1987年にシラク、レーガン両大統領は話し合いで双方の権利を認め、特許料等を折半することで
政治的な決着をみます。
このようなケースでの大統領同士よる政治的解決は歴史的に誰も記憶がないそうです。

 

4. ロバート・ギャロ(Dr. Robert Gallo)博士とは

米国国立がん研究所のギャロ博士は、エイズの原因ウィルスは自分が発見した
血液ガンを誘発するウィルスHTLV-1、HTLV-2の亜種と仮定して研究していました。
フランスのリュック・モンタニエ(Luc Montagnier)博士らはユタ州のスキーリゾートで
開催された学会においてLAV(後のエイズ・原因ウィルス)の研究成果を発表しています。
このときにギャロ博士はエイズがHTLVの延長線上であるHTLV-3 と考えていただけに
「激しい言葉」で彼らを非難したそうです。
モンタニエ博士は英語が苦手なうえに、レトロウィルスに関しての知識が薄かっただけに、
反論が充分でなく、後年のトラブル発生原因となったといわれます。
ロバート・ギャロ博士は、米国のマスコミにも「恐ろしく競争心の強い人。大言壮語をし、
腰が低いかと思えば時には残酷」と書かれるほどの人です
(a fiercely competitive man. bombastic,condescending and often cruel)。
CDCの会議などでもパスツール研究所とは異なる
エイチアイヴィー(HIV:Human Immunodeficiency Virus)を
分離したハーバード大学の若い学者(Jim Mullins)を大声で恫喝したという
エピソードが伝えられています。
ロバート・ギャロ博士はコネチカット州生まれ、イタリア移民労働者階層出身。
近隣のボルチモアにあるプロフェクタス・バイオサイエンス社(Profectus BioSciences, Inc)の
共同オーナーともなっています。
プロフェクタス・バイオサイエンス社はエイズを含むウィルス感染症による
死者を減らす技術開発を目的に2005年創立されました。

 

5. ロバート・ギャロ博士が失脚しないのは?

ギャロ博士はメリーランド州の国立衛生研究所傘下の国立がん研究所から、
メリーランド大学医学部の責任者となっています。
メリーランド州はワシントンDCを抱え込むような位置にあり、
ロバート・ギャロ博士が政府、議会の関係者と親しく、紛争の解決に
レーガン大統領が動いたことも不思議ではありません。
メリーランドの高級住宅地べセスダ(Bethesda)にはギャロ博士が在籍した
国立衛生研究所(U.S. National Institutes of Health:NIH)などが立地し、
ワシントンに通うVIPたちが数多く居住しています。NIHは2兆円を超える予算を持つ、
世界最大の衛生分野の研究機関です。
メリーランド大学は農業学校(創立1856年)としてのスタートし、
現在は中堅どころの綜合大学です。産学協同の事業意欲が強いことは例外ではなく、
近隣にある自然科学、医学の名門ジョーン・ホプキンス大学を意識しているとも言われています。
議会の有力者との付き合い。上昇志向が強い大学に護られて、
毀誉褒貶のあるギャロ博士の地位は安泰となっているのかもしれません。
一旦は告訴に踏み切った国立衛生研究所も(政治的圧力か?)後に取り下げています。
米国には良心とエゴが両立して存在することの見本のようなケース。
米国(ワシントン?)にはロバート・ギャロ博士に加担する勢力もあります。
一部の米国人がフランス研究陣に対して持つ優越感は、「レトロウィルスが
米国で発見され、その逆転写作用も(イタリア人を含む)米国の学者による発見」ということです。
医学分野の新発見は過去の研究成果の積み重ねをベースに進められることがほとんどですから、
レトロウィルスの持つ特性が今回のHIV発見に重要な役割を果たしていたことは事実。
エイズ・ウィルス研究の主流と自認していたロバート・ギャロ博士は、
フランスの研究者達に先を越される失態を認めたくはなかったでしょう。
ギャロ博士はエイズに関心が高いゲイツ基金(The Bill & Melinda Gates Foundation)からも
巨額な援助を受けているといわれますから、なおさらです。

 

6. 米国の良心と自浄作用

その後1992年末に米国国立衛生研究所(NIH)はロバート・ギャロ博士を
ウィルス同定に虚偽の報告をした反倫理的行為で告発しています。
シカゴ・トリビューンなど新聞社の調査キャンペーンや、
ロシュ社(Hoffmann-La Roche)に委託された遺伝子調査が続き、
1997年には国立衛生研究所がフランス側の主張であるロバート・ギャロ博士の
HTLV-IIIはパスツール研究所のLAV (Lymphodenopathy Associated Virus)と
同じ遺伝子のウィルスあることを確認しています。
リュック・モンタニエ博士らは一人のエイズ患者のウィルスを分離、培養していた故に、
ウィルス株の特定ができたといわれています。
1997年にロバート・ギャロ博士自身も英誌「ネイチャー」上で新発見といわれた
HTLV-IIIはパスツール研究所より借り受けたLAV株であることを認めているそうです(未確認)。

 

7.着実に増えているHIV感染者

世界レベルでは2000年前後のピークで累計4,000万人以上が
HIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)に感染。
エイズ(Acquired Immune Deficiency Syndrome:AIDS:後天性免疫不全症候群)を
発症したのが累計2,500万人といわれます。
(*発展途上国や中国の統計が信頼できませんので死者数などの実態は不明)
2015年現在では、開発された発症抑制の医薬品によりエイズ発症者数と死者は
減少しているようですが、それでも推計で3,500万人くらいはHIV感染者がいるといわます。
感染者数の多いのは米国、タイ、中国、アフリカ諸国。
日本は感染者、発症者が1万6千人を超えているようです。
潜伏期間が想像以上に長いだけに、日本ではいまだに約8千人が感染に気付かずに
放置しているといわれます。
日本は途上国と異なり検査費用が無いわけではありません。
遺伝子編集技術が発明されて新たな医薬品が開発され、完治に光明が差してきたとはいえ、
現段階では医薬品で発症を抑えているだけの不治の病。
自己責任で感染した成人はともかく貧しい途上国のように感染者の大きな部分を占めるのが
子供という事態は避けて欲しいものです。

初版:2008/10/07
改訂版:2015年10月

最終更新日 2021年8月2日

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