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2007年に顕在化した牛乳汚染のヨーネ病は難病のクローン病? 平塚市で雪印の農協牛乳、メグミルク学給62万本を回収

2017年9月8日

1. ヨーネ病感染牛の牛乳が関東圏に流通

神奈川県平塚市でヨーネ病の疑いのある牛からの牛乳が関東圏の
学校給食やスーパーに供給されていた事件(62万本を回収)が
2007年10月下旬に発生しました。
福島県郡山で10月上旬に発生したブルセラ病(170万本を回収)に続き、
10月だけで大規模な牛乳汚染疑いが2件発生したことになります。

ヨーネ病(Johne’s disease)は細菌が確認されてから100年以上経ちますが、
相変わらず世界の酪農家を悩ます消化器系家畜疾病の一つで、
畜産王国の米国では70万頭以上の牛が感染しているとも言われます。
乳牛が痩せて、乳が出なくなり、死亡しますから、
酪農家の経済的損失は非常に大きいものがあります。

日本の酪農は規模が微々たるために、ヨーネ病の知名度は無いに等しいのですが、
近年は治療が難しいクローン病(慢性腸潰瘍)との関連が疑われて
一般人にも関心が高くなっています。
日本のヨーネ病感染牛は1000頭以上が報告され(2004年)、珍しい疾病ではないだけに
人獣共通感染症(zoonotic)であるならば重大な関心を持つ必要があります。

2. 給食で大半が消費された汚染疑いの牛乳

ヨーネ菌の汚染が疑われた生牛乳は平塚市の畜産農家が搾乳し、日本ミルクコミュニティの
海老名工場で加工されたものです。
日本ミルクコミュニティは2003年に雪印乳業、雪印食品が各地の農協、酪農協などと
共に設立した会社です。
関東のスーパーで流通した牛乳のブランドは「農協牛乳」などですが、
大半は「メグミルク学給」などのブランドで給食用に供給されたようです。
安全とは宣言しながらも製造者、販売者が流通していた62万本以上の全てを
回収しようとしたことからは二つの問題点が推察できます。

ヨーネ病は人獣(人畜)共通感染症(zoonotic)の疑いが濃厚であり、
クローン病との関連が否定できない。
熱に強いヨーネ菌が現行の高温殺菌方法で死滅したかどうか自信が持てない。

したがって行政当局、製造会社が「牛乳は高温殺菌処理により細菌は死滅している」と
広報するかたわら、全量回収に踏み切った矛盾に疑問を持った消費者も多いはずです。
日本ミルクコミュニティは雪印乳業、雪印食品がエンテロトキシンAの
黄色ブドウ球菌、セレウス菌、大腸菌などの大規模中毒事件や食肉詐欺事件をおこして
廃業するときに作られた会社ですから、事件に過敏であったのかもしれません。

3. EU流低温殺菌乳製品の危険性

日本では差別化が必要なローカルブランドや観光牧場に低温殺菌を
売りにする牛乳が増えています。
低温殺菌を選択している牛乳生産者の宣伝文句は、高温殺菌は
味覚と栄養分を損なう(焦味)(たんぱく質の変質)、乳酸菌が死滅する、
カルシュウムが吸収されにくくなる、などが主です。

安全性の理論的根拠は欧州が主として低温のパスチャライズ(パスツール式殺菌)を
選択しているからのようです。
欧米の狩猟民族や酪農先進国では、習慣と味覚などの点から乳製品の生食を好み、
無殺菌の生牛乳、生チーズの摂食や、自家用を横流しする違法な販売が多々あります。
これは医学が未熟な頃の名残であり、行政当局ではそれに対し強い警告を発していますが、
自家用生産量が多いために監督が難しい現状です。

欧米の保健管理当局は、かねてより生乳、生チーズなど乳製品の高温調理を求め、
乳児には安全な母乳を推奨しています。
生食が永年の習慣によるものとはいえ、欧米では人獣共通感染症による難病、
死亡者が多発しており、生産、販売関係者の無知が指摘されています。

牛乳にはいくつかの殺菌方法がありますが、日本の流通の大半を占める大手業者の製品は
高温殺菌(UHT)(120-130度C で2-3秒)です。
ヨーネ菌など低温殺菌(高温でも?)では対応できない細菌が増えている現実がありますから、
大手業者が安全確保のために高温殺菌を選択するのは自然な成り行きでしょう。

動物を原因とする重篤な疾病や食中毒を引き起こす人獣共通感染症の研究は
急速な発展をしています。
人獣共通感染症は新種も含めて増加傾向にあり、様々な分野で
これまでの対策法を見直す動きがでています。
牛乳殺菌についても欧州では
低温パスチャライゼーション(pasteurization:パスツール式殺菌)の
限界が議論されています。
(注)米国のパスツライズ(パスチャライズ)(pasteurize)は日本の大手業者が
採用している高温短時間殺菌を意味するようです。

4. 消費者不安が無視されたヨーネ病騒動

神奈川県のヨーネ病騒動は灰色を黒とは決め付けることが出来ない行政の限界が
露見した事件ですが、疑わしきは避けなければならない消費者としては
詳しい広報が欲しい事件。
「牛乳は高温殺菌処理をしており問題は無いと思われるが回収します」
という自信が欠如したあいまいな説明が全てでした。

消費者には広報が行き届いておらず、給食用が大半であったことから、
どこまで回収できたのかも定かではありません。
筆者が購入したのはこの汚染が疑われる日付の「農協牛乳」ブランドですが、
大丸ピーコック(藤沢)で販売されたものです。
ピーコックでは新聞などの報道で知った消費者のみと交換するだけで、
張り紙、チラシなど、通知に特別な配慮はありませんでした。
そのまま消費した顧客も多かったことが推察できますが、
行政共々に配慮に欠ける処理といえます。

5. 難病のクローン病とヨーネ病は同じ?

ヨーネ病に感染した牛、水牛、ヤギ、ヒツジなどは痩せて、搾乳不能となり、
発病後1年くらいで死亡します。
感染すると回腸、小腸などが腸炎を引き起こし、排泄物を経由して感染していきます。

発見した(1895年)ドイツのハインリッヒ・ヨーネ(Heinrich A. Johne)に
ちなんで命名されましたが、この頃の研究室では英国、米国の学者が共同研究して居り、
英米でその後の研究が進化しました。
ヨーネ病(Johne’s disease)はマイコバクテリウム属のヨーネ菌
(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis:MAP)が病原菌。
鳥が宿主となるMycobacterium aviumの亜種といわれます。

ヨーネ菌はマイコバクテリウム・パラツベルクローシス(Mycobacterium paratuberculosis)
またはparatuberculosis(パラツベルクローシス)(パラテュバキュロシス:英
簡略化して呼ばれます。
ツベルクローシスは結核(Mycobacterium tuberculosis)のことです。
ヨーネ菌は畜産関係者から検出されることが多く、難病のクローン病との関連から、
衛生管理行政では危機感を強めています。

クローン病(Crohn’s disease)は慢性の下痢を繰り返す消化器系統の疾病です。
英国(イギリス)など歴史のある畜産国では腸カタル(regional enteritis)と
呼ばれた疫病、風土病.
病理を確立した(1932年)米国のクローン博士。(Burrill Bernard Crohn)に
ちなんで命名されていますが、多くの欧米学者が研究に貢献しています。

最近の日本では検査法の進歩もあり右肩アガリで患者が急増しています。
難病指定者として治療をしているクローン病患者だけでも
2万5千人くらいになるようです。
クローン病(Crohn’s disease)はヨーネ病との関連が疑われ、
人獣共通感染症(zoonotic)とする学者が少なくありません。
畜産関係者には人獣共通感染症の危機意識が薄い人が珍しくありませんが、
老人、幼児、児童など抵抗力が弱い人は家畜の排泄物に触れる可能性のある放牧場などに
近づかないことが懸命です。

6. 乳製品を汚染する人獣共通感染菌の種類

米国では2003年から2004年にリステリア、サルモネラ、大腸菌類(E. coli.O157)に
汚染したメキシコ、南米由来の生フレッシュチーズ(ケソフレスコ)(queso fresco)の
中毒が広まり社会問題化しました。
米国の保健行政当局であるCDCは生乳やフェタ(feta:ギリシャ由来のヒツジチーズ)、
ブリー(brie)、ケソフレスコなどの生チーズが細菌に汚染されているのは
あたりまえという認識です。
細菌は変異株が次々に出現します。
耐性がどんどん変わりますから、対応もどんどん変えていかなければ
死滅させることはできません。
そのような疑いがあるからこそ、乳業関係者は高温殺菌でも全幅の信頼をすることが
出来ないわけです。

7. カンピロバクター菌(Campylobacter)

鶏の感染率が高い病原菌。
少量の菌で発症することと、変異株が多くなっていることで
畜産従事者が最も警戒している人獣共通感染症です。
ギランバレー症候群(進行性麻痺)の原因として知られています。

カンピロバクター菌の変異株
カンピロバクター・ジェジュニー(Campyrobacter jejuni )
カンピロバクター・コリ(Campylobacter.coli )腸炎
カンピロバクター・ヒオインテスティナリア(Campylobacter.hyointestinalis)
カンピロバクター・フィタス(Campylobacter. fetus)敗血症や心内膜炎、関節炎、髄膜炎
カンピロバクター・ベネレアリス(Campylobacter venerealis)家畜の流産を起こす菌、人感染は不明

8. エルシニア菌(Yersinia):省略

9. 大腸菌類(Escherichia coli) :省略

10. リステリア菌(Listeria monocytogenes):省略

11. サルモネラ菌(Salmonella):省略

12. ブルセラ菌(Brucella)

イギリスのデービット・ブルース(David Bruce)にちなんで命名されました。
グラム陰性小桿菌。人に感染すると頭痛など風邪様の症状から始まり、
進行した場合は中枢神経を侵し、脳炎、髄膜炎の原因となる。
宿主によりいくつかの異なる菌種が報告されています(学名の後は宿主)。

ブルセラ菌の変異株
Brucella canis:大阪の犬のテーマパーク倒産事件で注目された. 放置された犬の
3分の2くらいの感染が疑われ、処分されました。
Brucella abortus:2007年10月上旬に福島県郡山の生産者が飼育した乳牛の感染が疑われ牛乳、
ヨーグルトなど170万本以上が回収された。乳製品製造会社は酪王乳業と
現在キリンビールグループとなっている小岩井乳業。
Brucella melitensis:ヤギ、ヒツジ
Brucella suis:ブタ, いのしし
Brucella ovis:ヒツジ

初版:2007年11月
改訂版:2017年9月

 

最終更新日 2021年4月18日

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