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アスベストによる健康被害: フェデラル・モーグル社とティー・アンド・エヌ社の合併は陰謀か?

2013年10月17日

ケベック州のアスベスト鉱山は欧米に輸出できなくなってからも、日本などアスベスト被害に
無関心な国に輸出を続けていました.右は取材に出かけた時に観光用展望台で撮影.

 

1.アスベスト関連企業の賠償責任

日本ではアスベストによる健康被害を、立法により国が補償しようという動きがあり、
物議をかもしています。
欧米でもアスベスト関連企業のロビー活動により、補償制度の立法が
企てられましたが、税金投入の前に関連企業が最大限の賠償をするという
スタンスが勝りました。

最大限ということは企業の資産を全て吐き出すということを意味します。
実際にはそれでも賄えない企業がほとんどですから、民事再生法の助けをかりて、
賠償を有限にする手法がほとんどになりましたが、ここでもまた問題がおきました。
これが前に紹介した自動車部品の多国籍企業フェデラル・モーグル社(Federal-Mogul)の倒産。
フェデラル・モーグル社は4万5千人の従業員、55億ドル(約6千億円/2003)を
売り上げる多国籍自動車部品会社。
倒産前の1999年には65億ドルを売り上げていました。

 

2.フェデラル・モーグル社倒産は偽装だったのか?

フェデラル・モーグル社は1998年に英国の自動車部品多国籍企業
ティー・アンド・エヌ(T&N plc)社や米国のクーパー社など
13社を60億ドル(約6600億円)で買収しましたが、
半数以上の会社が膨大なアスベスト訴訟を抱えていました。
企業の急拡大に走る経営陣のミスにより、賠償総額の見積もりが
甘かったというのが、これまでの解説ですが、1994年以降は建設関連を
中心に企業側の敗訴が続き、賠償が青天井になりつつあった時期です。
このような時期に、フェデラル・モーグル社の経営陣が多数の問題企業を
合併するとは考えられないという投資家や従業員、被害者の意見も当然でした。
フェデラル・モーグル社は2001年に倒産しましたが、
この倒産に対し疑義が集中します。

 

3.疑われた米英自動車部品会社群の大合同

倒産したフェデラル・モーグル社は倒産当時に365,000件の
アスベスト訴訟を抱えていました。
フェデラル・モーグル社の従業員や投資家が問題にしたのは、
訴訟のほとんどが買収会社によってもたらされたものだったからです。
英国のティー・アンド・エヌ社は米国のフェデラル・モーグル社と
並ぶ著名な自動車部品会社。
フェデラル・モーグル社がこの年に買収したその他の会社群も、
アスベストの賠償負債を除けば優良会社です。歴史が築いた厚い資産と
ブランドは魅力が十分ありました。
疑いの第一は、倒産が避けられなくなったT&N社やクーパー社など
優良会社群が、青天井のアスベスト補償で資産を壊滅させる前に、
フェデラル・モーグル社と大合同し、その後にフェデラル・モーグル社が
会社再生法(チャプター・イレブン)を申請して資産の保全を図ったというものです。
この方法によりフェデラル・モーグル社は数多くの優良ブランドとともに
残された資産を入手したと非難されました。
当時から関係者の間では、英国よりもメリーランドの連邦裁判所は
会社再生法の解釈が緩やかとの評判があったようです。

 

4.失敗に終わったフェデラル・モーグル社のベンディックス買収

                             

フェデラル・モーグル社は2001年の倒産後に、ブレーキ部品などで
著名なベンディックス社(Bendix)の買収を企てました。会社再生中の話です。
ベンディックス社は計測器なども製造するするエレクトロニクス会社ですが、ブレーキ・パーツを
製造しており、ハニウェル社(Honeywell International Inc)の子会社。
ベンディックス社は2003年だけで71,000件を超えるアスベスト訴訟を抱え、
賠償額は20億ドル(約2,200億円)を超えていました。
過去のブレーキ部品がアスベストを使用していたからです。
ハニウェル社のベンディックス社売却計画に対しクレームをつけたのは、
GM、フォード、ダイムラー・クライスラーのビッグスリー。
この行為はティー・アンド・エヌ社などと同様に壊滅が予想される
ベンディックス社の資産をフェデラル・モーグル社に移転し、
ベンディックス社と訴訟中のビッグスリーの権益を侵すものであるという主張。
結局この合併は最近になり、破談となりました。

 

5.英国のアスベストを独占したティー・アンド・エヌ(T&N plc)社

ティー・アンド・エヌはターナー・アンド・ニューウォール(Turner and Newall)の略。
欧米、南アフリカ、ジンバブエに4万人の従業員を抱え、
20億ポンド(約3,520億円)を売上げる(1994年)多国籍企業でした。
この会社は第二次世界大戦が終結する(1945年)まで、
英国のアスベスト産業を独占していました。
主要製品はアスベストファイバーと断熱用吹きつけ材、防火用材料、絶縁材料。
自動車部品産業が隆盛になるに従い、ティー・アンド・エヌ社は
「チャンピオン」ブランドのスパーク・プラグ、ブレーキ・ライニング、
ブレーキ・パッド、ガスケットなど多岐にわたる自動車部品が主力と
なりますが、アスベストを独占していたことが裏目に出て苦境に陥ります。

 

6.ティー・アンド・エヌ社の凋落

                                              

ティー・アンド・エヌ社の凋落はアスベスト訴訟が急増した
1990年代の初期に始まります。
1994年の税引き前決算利益は前年の
7,000万ポンド(約123億円)から1,070万ポンドに急減し、
純損失は1,650万ポンド(約28億円)になりました。
アスベスト関連の補償が前年の2,200万ポンドから6,200万ポンドに
急増していたからです。それでも当時の営業収益は前年を5,700万ポンド上回り、
1億8,000万ポンド(約316億円)ありましたから、
今後の補償に1億4,000万ポンドを準備することを公表するなど、
余裕がありました。
この頃は税の還付や保険会社の支払いもあり、
直接的に大きな損失にならなかったこともありますが、
この時点をピークに体力は急激に落ちていきます。

7.ティー・アンド・エヌ社のアスベスト賠償予想額                                    
実際に第三者の試算では、ティー・アンド・エヌ社が賠償に必要な金額は
当座が約5億6,500万ドル(約620億円)、20年を越える将来の賠償額累積予想は、
米国の賠償が105億ドル(約1兆1,550億円)、
英国の賠償が2億3千万ポンド(約405億円)に膨れ上がっていました。
1992年に米国東部の大学が予測したデータによれば、
米国では2015年ごろまでに、アスベスト関連の肺疾患により20万人が死亡し、
そのコストが500億ドル(約5.5兆円)と計算されていました。
これはアスベスト関連会社の総資産約60億ドルの10倍にはなり、
補償をする保険会社の資産は補償金と同額くらいの500億ドルといわれます。
T&N社の予想賠償額は全体の20%以上を占める巨額なものでした。

 

8.フェデラル・モーグル社が買収したその他の有力会社

*ガスケット・ホールディングス社(Gasket Holdings, Inc)

T&N 社の子会社(かっての名はFlexitallic Gasket Company)。ガスケット製造
*アンコ社(ANCO
T&N 社の子会社。ワイパー・ブレード製造。
*フェロド社(Ferodo America, Inc.)
T&N 社の子会社。ブレーキライニング、ブレーキパッドを開発製造した
歴史的に有名な英国の会社。
*クーパー社(Cooper Industries, Inc)
1998年に買収した会社で、最も多くの訴訟を抱えたのは
クーパー社(Cooper Industries, Inc)。
この会社の子会社にワグナー電気(Wagner、合併当時はMoog Automotive, Inc)
というライティングシステムの会社がありましたが、摩擦材も製造していました。
この摩擦材が訴訟の標的にされました。
*アベックス社(Abex)
摩擦材製造。
*フェルト・プロダクト社(Felt Products Manufacturing Co.
(旧フェロプロ社:Fel-Pro Inc)    ガスケット製造
*ヴェリューモイド社(Vellumoid) 
大型エンジン、航空機用など特殊ガスケット製造。
1965年から1981年まで経営し、その後売却しましたが、
訴訟から逃れることが出来ませんでした。

初版:2005年8月
復刻:2014年10月(日付は2013年10月)

最終更新日 2021年8月12日

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