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細胞老化と癌(その1): レプチン、マイオカイン、マイオスタチンの発見: 癌(がん)、糖尿病、ダイエット研究の最前線情報は玉石混交

2017年7月7日

細胞老化と癌 その1:

ミオカイン(マイオカイン)ブームに警告: 癌(がん)、糖尿病、ダイエット研究の最前線情報は玉石混交

医学界では肥満予防や2型糖尿病の予防、治療は最大テーマの一つです。
肥満や糖尿病が死亡者の最も多い癌や脳卒中、心臓病などに繋がるからです。
それだけに医薬品開発につながる機能解明競争が激しく、STAP細胞の小保方さんを
連想させるねつ造データによる論文発表も少なくありません。



1. ミオカイン(マイオカイン:myokine)とは

ミオカイン(マイオカイン)とは300種類以上があるのではといわれる
神経伝達物資ホルモン(サイトカイン:cytokine)グループの総称。
運動により血中への分泌が促進されるといわれます。

ミオカイン受容体は筋肉、脂肪、肝臓、膵臓、骨、心臓、免疫細胞、脳細胞など広い範囲で発見されています。
これがミオカインが免疫や、骨を含む体組織の修復、維持など多方面に関与するタンパク質といわれる所以(ゆえん)です。
これまで見いだされた主要ミオカインにはインターロイキン6(Interleukin-6)、
ミオネクチン(CTRP15)、イリシン,SPARC(secreted protein acidic and rich in cysteine),デコリン,アディポネクチン、BDNF(Brain derived neurotrophic factor)などがあります。

ミオカインはコペンハーゲン大学のペダーソン博士( Dr.Pedersen*)らによって
存在が示唆されていましたが、2008年になり、その正体が確認されました。
生命活動に機能している物質には必ずといってよいほど反作用を持つ物質が存在して
バランスを保っていますがミオカインも、同定とほぼ同じくして、反作用を持つ
ミオスタチン(myostatin)の存在が確認されています。
*Dr. Bente Klarlund Pedersen:
professor of integrative medicine at the University of Copenhagen



2. 日本人研究者による「PTEN:ピーテン」研究論文のデータ改ざん

10年以上前ですが、大阪大学の研究チーム(代表者下村伊一郎教授、竹田潤二教授)が、米国の電子版科学雑誌ネイチャーメディシン2004年11月号に発表した論文*を、
2005年5月になって、取り下げた事件がありました。
*「Enhanced insulin sensitivity, energy expenditure and thermogenesis
in adipose-specific Pten suppression in mice」
(PTENを抑制したマウスによる、インスリン感受性の増加、及びエネルギー消費と体温の増加)

論文は脂肪組織内にある酵素「PTEN」の働きを抑制すると、脂肪燃焼が促進され
肥満が解消されると言うものです。
実験の結果は対象マウスが普通のマウスと比較して2割り増しの餌を食べ、体長に差はないものの、脂肪組織の重さは約25%、体重は約75%も少なかったと発表されていました。
取り下げ理由は、この実験データが改ざんされたものであり、特殊なホルモンを使用して「PTEN」を持たない種類の実験用特殊マウスを生産したことも
虚偽であった、ということです。
大阪大学の下村伊一郎教授は「インスリン抵抗性症候群における脂肪組織の意義に関する研究」で平成15年度日本糖尿病学会賞、リリー賞などを受賞した、肥満ホルモン研究の第一人者といわれていました。
「PTEN」とは
「PTEN:ピーテン」は脂肪組織に分布するイノシトールリン脂質に
関与(脱リン酸化)するタンパク質(酵素)。
肥満や糖尿病、癌細胞研究者がターゲットとして研究している最前線で注目の物質。
癌細胞においてはPTEN遺伝子に変異などの異常が見つかっています。



3. データ改ざんの背景となったのは肥満ホルモン解明競争

ポストゲノムのプロテオミクス(たんぱく質の構造、機能の網羅的研究と解析)が進み、2000年前後から肥満、糖尿病、心血管関連疾患の密接な関係が明らかになりつつあります(ホルモンや酵素はたんぱく質)。
肥満ホルモンは血液中のブドウ糖量をコントロールしているインスリンの支配下にあり、関連の研究はハワード・ヒューズ医学研究所のフリードマン教授らによるレプチンの発見(1994年)により飛躍的に進展しました。

肥満ホルモン関連で最大の新発見と言われるレプチンや、後年のアディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される物質ですが、下村伊一郎教授らも「インスリンなどのホルモンの指令を受ける側とされてきた、筋肉や脂肪組織(adipose tissue)などからも、種々の作用がある生理活性物質が分泌されている」、「脂肪組織は肥満ホルモン分泌器官の最大の組織であり、糖尿病治療の新世紀が到来している」と、フリードマン教授らに同調しています。

その後1998年に筑波大学の桜井武氏、テキサス大学の柳沢正史氏などが発表したオレキシン、1999年に国立循環器センターの寒川教授らが発見したグレリンなど、
数多くの有力な新物質が報告されています。
またネイチャー誌には2001年ごろより東京大学の糖尿病学の権威である、山内敏正医師、門脇 孝助教授らによる、筋肉脂肪組織由来のインスリン感受性ホルモン、アディポネクチンの研究が発表され、2004年秋の「PTEN」発表と同時期に、新たなアディポネクチン研究が同誌に発表されていました。このように肥満や糖尿病の研究発表競争が過熱していることが、今回のオーバーランの背後にあるといえます。



4. レプチン(Leptin):食欲抑制、脂肪分解ホルモン

レプチンは1994年12月にロックフェラー大学及びハワード・ヒューズ医学研究所の
ジェフリー・フリードマン(Jeffrey Friedman)博士らによってネイチャー誌発表された、脂肪細胞から分泌されるペプチドホルモン。
ギリシャ語のやせると言う意味(leptos)にちなんで命名されました。
レプチンは視床下部に存在するレプチン受容体に結合して食欲抑制と脂肪分解、褐色細胞においてはエネルギー代謝の亢進を促し、糖脂質代謝に影響を与えます。
レプチン欠損遺伝子を持つ家系に、合成したレプチンを投与すると異常肥満が治療できたという研究があります。したがってレプチンは肥満を抑制すると考えられていますが、脂肪細胞からのレプチン分泌低下によってレプチンの血中濃度が低く、肥満になっている人の割合は多くはなく、90%くらいの肥満の人が通常のBMI値(肥満度)の人よりレプチン血中濃度が高いことが報告されていますので、機能の全貌はいまだに研究中とされています。



5. グレリン(ghrelin):食欲増進ホルモン

グレリンは1999年12月に宮崎大学から国立循環器センターに転出された寒川(かんがわ)教授、児島教授のグループにより、胃より検出され、グレリンと命名されたアミノ酸28個からなる受容体結合物質(リガンド)。
グレリンは成長ホルモン分泌促進ペプチド(ペプチドは低分子のたんぱく質前駆体、ホルモンや酵素はたんぱく質です)ですが、教授達は2001年1月にはグレリンが「中枢系に働きかけて食欲を増進させる」、「心臓血管など循環調節系にも機能する」ことなども解明し、臨床応用に向けての研究を開始しています。
成長ホルモン(GH、Growth Hormone)の分泌は、分泌促進作用をする視床下部ホルモンのヒト成長ホルモン分泌ホルモGHRH(Growth Hormone Releasing Hormone)と分泌抑制作用をするソマトスタチンによって制御されていると考えられていました。
一方、消化管である胃などからの、新たな分泌調節系の作用物質の存在も予想されていましたが、これまでその分離が出来ませんでした。グレリンの発見により、新たな分泌調節系物質の存在が明らかになったわけです。
胃から分泌されたグレリンは、血中ホルモンとして成長ホルモン分泌の調節に機能することも解明しています。
すでに寒川教授らの発見した別のホルモン(ナトリウム利尿ペプチド)は循環器病領域の心不全の診断や治療に使われており、治療が行われた患者は、のべ14万人(2002年)に達しているそうです。



6. アディポネクチン(adiponectin):インスリン感受性ブドウ糖濃度低下ホルモン

東京大学の山内敏正医師、門脇 孝助教授らがDNAのクローニングに成功しています。
アディポネクチンは,244 アミノ酸残基から成るタンパク質。脂肪細胞で産生分泌されます。
インスリンに感受性を示し、血中のブドウ糖濃度を下げる役割があるホルモンといわれます。
マウスレベルではアディポネクチンの欠乏で糖尿病になることが確認されています。
肥満、Ⅱ型糖尿病患者、冠動脈疾患のアディポネクチン濃度は血漿中で減少しています(Nature. Jun. 12. 2003、Yamauchi.T et al)
アディポネクチンは酸化脂肪酸の発生などでおきる血管障害時に、障害場所に集積して動脈硬化抑制に働くという、いわば血管修復材の役割も持つそうです。



7. オレキシン(orexin:ハイポクレチン):睡眠、摂食調節ホルモン

オレキシンはハイポクレチンとも呼ばれる、摂食コントロールや睡眠に関わる
神経伝達ペプチド(neuropeptides)です。
不眠(ナルコレプシー)患者は脳脊髄液中でオレキシンの量が低下していることが知られています。
1998年に筑波大学の桜井 武氏、テキサス大学の柳沢正史氏らにより、
未知であったオーファンG蛋白質共役受容体(G protein-coupled receptors)に対する受容体結合物質(リガンド、ligand)として、視床下部に局在する生理活性物質2種が発見され、33アミノ酸残基(分子量3,562)のものが、オレキシン-A、28残基(分子量2,937)のものが、オレキシン-Bと命名されました。現在では不眠治療のために、医院において脳脊髄液中のオレキシンの量を計量することが出来るようになりました。



8. ソマトスタチン(somatostatin):インスリン抑制、成長ホルモン(GH)分泌阻止ホルモン

ソマトスタチンは、消化管、視床下部などより成長ホルモン分泌抑制因子として分泌されるアミノ酸14個(ソマトスタチン14)か、28個(ソマトスタチン28)のペプチドです。成長ホルモン分泌に対し強い抑制作用を示し、各種刺激に対する成長ホルモン分泌を抑制します。
また、甲状腺刺激ホルモン、インスリン、グルカゴン、胃酸分泌、消化管運動、膵外分泌に対しても抑制的に作用します。この作用により食欲が抑制されると言われます。
ソマトスタチンの分泌は12指腸や小腸から分泌されるペプチドのコレシストキニン
(cholecystokinin),や、たんぱく質のアルギニン,ロイシンによって促進されるといわれます.



9. オーファン受容体(orphan receptor):結合相手が不明の受容体

オーファン受容体とは受容体結合物質(リガンド)が同定されてない孤児(オーファン)の受容体のこと。
細胞膜において受容体結合物質(リガンド)(配位子)が同定されていない
受容体(オーファン・レセプター)の数は数百以上あるといわれています。
G蛋白質共役型((G protein-coupled receptors))の受容体はすでに多数が発見されていますが、相手となる結合物質を同定するのは容易ではありません。
オーファン受容体への結合物質を同定することによって初めて受容体の機能が解明され、医薬品の開発などの応用が出来るようになります。

初版: 2005年5月
改訂版:2014年5月29日
改訂版:2017年7月07日

selective focus photography of tape measure

最終更新日 2021年5月3日

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